「前線国家」となった日本の最前線「小松基地」が持つ重要性

執筆者:永田伸吾 2024年3月5日
タグ: 自衛隊
2023年8月、イタリア空軍はF-35A戦闘機部隊を小松基地に展開し航空自衛隊と共同訓練を実施した[イタリア空軍のアルベルト・ビアバッティ航空コマンド司令官(左)から記念の盾を受け取る航空自衛隊の鈴木康彦航空総隊司令官=2023年8月8日、石川県小松市](C)時事
中国、ロシア、北朝鮮の軍事的な連携が常態化し、これら3カ国と海を挟んで対峙する日本は、現状維持勢力にとっての「前線国家」と位置づけられる。同盟国・同志国の軍隊が訓練等のため日本に派遣される機会も増える中、日本海側唯一の戦闘機配備基地である石川県の小松基地の機能強化が注目される。

 日本政府は2022年12月に「国家安全保障戦略」を9年ぶりに改訂し、その動向を特に注目すべき国として中国、北朝鮮、ロシアを挙げた。ロシアの動向については「中国との間で、戦略的な連携を強化してきている。特に、近年は、我が国周辺での中露両国の艦艇による共同航行や爆撃機による共同飛行等の共同演習・訓練を継続的に実施するなど、軍事面での連携が強化されている」(10頁)と指摘し、日本周辺海空域での中ロの軍事的連携が常態化していることを示唆した。

 また、北朝鮮は2021年1月の労働党大会で発表した「国防5カ年計画」に基づき日本周辺で弾道ミサイル、巡航ミサイル、極超音速兵器の発射実験を繰り返すなど、戦略・戦術両面でのミサイル開発に邁進している。こうしたことからも、日本にとってこれら3カ国が安全保障上の喫緊の脅威であるとの認識は当然といえよう。

日本近海で常態化する中ロの軍事的連携

 中ロ海軍は、2012年から2022年まで(2018年と2020年を除き)、「海上協力」と呼ばれる合同演習を11回実施している。同演習は地中海・黒海、南シナ海、バルト海などでも実施されたように両国の軍事的連携をグローバルに誇示することを目的とした軍事演習である。但し、第2回のウラジオストク沖をはじめ、4回が日本海やオホーツク海など日本周辺海域で実施された。とくに、2021年10月に日本海で実施された「海上協力2021」の終了後、両国艦艇は津軽海峡を通過して日本周辺海域を航行する「海上共同パトロール」を初めて実施した。「海上共同パトロール」は2022年9月に第2回が実施され、中ロの軍事協力計画に基づき2023年7月に中国人民解放軍北部戦区が日本海で実施した合同演習「北部・連合2023」の終了後に実施された第3回「海上共同パトロール」では、両国艦隊はベーリング海や日本近海の太平洋を経て東シナ海を航行した。

 空軍間でも中ロの日本周辺空域での軍事的連携は進んでいる。2016年1月末には中国空軍のY-9情報収集機とY-8早期警戒機が対馬海峡を経てロシアの沿海州方面に飛行した。これは中国空軍機による初の日本海進出とされる。さらに、2019年7月には中国空軍のH-6戦略爆撃機とロシア航空宇宙軍のTu-95戦略爆撃機が日本海や東シナ海など日本周辺空域で「共同空中戦略パトロール」を実施した。「共同空中戦略パトロール」は戦略爆撃機が中心であるが、時に早期警戒管制機、戦闘機、空中給油機、哨戒機、電子戦機等を伴いながら、2023年12月まで7回実施されている。

 以上のように、2012年頃から顕在化した中ロの日本周辺での軍事的連携の誇示は、2023年までに常態化したといえる

米軍以外の外国空軍とも共同訓練を開始

 日本周辺では、中ロの連携に加えて、北朝鮮の核・ミサイル開発の問題もある。2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以降、ある種の枢軸を形成しているこれら3カ国の動向は、日本が唱道する外交ビジョン「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に唱和する米豪欧など同盟・同志国にとっても深刻な脅威である。

 これら現状変更を試みる3カ国と直接対峙する位置にある日本は、現状維持勢力(同盟・同志国)における「前線国家」といっても過言ではない。そのため日本は、旧来の同盟国である米国に加え、豪州や欧州諸国等との多国間安全保障協力に着手してきた。2007年3月に「安全保障協力に関する日豪共同宣言」を署名した豪州とは、2010年5月に日豪物品役務相互提供協定(日豪ACSA)に署名した(2013年1月発効)。ACSAとは自衛隊と外国軍間の物資や役務の相互提供の手続きを定めた枠組みである。2015年9月成立の平和安全法制を受け、両国は2017年1月に新日豪ACSAに署名した(2017年9月発効)。また、2012年4月に「日英両国首相による共同声明:世界の繁栄と安全保障を先導する戦略的パートナーシップ」に署名し安全保障協力を約束した英国とは、2017年1月に日英ACSAに署名し(2017年8月発効)、さらに2017年8月には「安全保障協力に関する日英共同宣言」に署名することで安全保障協力関係を新たなステージに引き上げた。

 こうした流れの中で、2016年11月には航空自衛隊三沢基地(青森県)で日英戦闘機部隊の共同訓練「ガーディアン・ノース16」が実施された。これは航空自衛隊にとって日本国内での米国以外の外国空軍との初の共同訓練であった。また、2019年9月から10月にかけて航空自衛隊千歳基地(北海道)で初の日豪戦闘機部隊の共同訓練「武士道ガーディアン19」が実施された。

国連軍地位協定に基づき在日米軍基地を利用する諸外国軍

 日本は豪英以外にも安全保障協力を拡大していく。2018年4月に日加ACSAに署名し(2019年7月発効)、2018年7月には日仏ACSAに署名した(2019年6月発効)。2020年9月には日印ACSA(2021年7月発効)、2024年1月には日独ACSAに署名した(未発効)。

 加えて、朝鮮国連軍地位協定(以下、国連軍地位協定)も多国間協力を支える枠組みとして活用されている。国連軍地位協定は朝鮮戦争の休戦後に日本に国連軍後方指令部が設置されたことに伴い、1954年2月に朝鮮国連軍参加国と日本が締結した協定である(同年6月発効)。最終的に12カ国となった締約国は同協定を根拠に、現在、キャンプ座間、横須賀、佐世保、横田、嘉手納、普天間、ホワイトビーチなど7カ所の在日米軍基地を使用することができる。

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カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
永田伸吾(ながたしんご) 金沢大学大学院社会環境科学研究科博士後期課程修了(法学)。ウィリアム・アンド・メアリー大学歴史学部訪問研究員、成蹊大学アジア太平洋研究センター客員研究員など経て、現在、金沢大学人間社会研究域法学系客員研究員、戦略研究学会編集委員会委員。主な研究分野は、アジア太平洋の国際関係、米ASEAN関係、戦略論、海洋安全保障。最近の論文に、「英国の国際秩序観とそのアジア太平洋戦略:新型空母の展開に注目して」『問題と研究』第49号第3巻(2020年9月、単著)、“ASEAN and the BRI: The Utility of Equidistant Diplomacy with China and the US,” Asian Journal of Peacebuilding, Vol. 7, No. 2, 2019(共著)、「5カ国防衛取極(FPDA)とアジア太平洋の海洋安全保障:防衛装備・技術面での日英協力の視点から」『海洋安全保障情報季報』 第18号(2017年11月、単著)、『国際政治と進化政治学: 太平洋戦争から中台紛争まで』(2023年4月、共著)などがある。
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