インテリジェンス・ナウ

中東での秘密工作練り直しを迫られるCIA

 エジプト市民の蜂起で舞台を去ったホスニ・ムバラク前エジプト大統領の辞任劇を見て、5年あまり前にイスラマバードで会ったパキスタン情報機関、3軍統合情報部(ISI)のハミド・グル元長官の話を思い出した。
「西はモロッコから東はインドネシアまで、イスラム圏で自由な選挙をやれば、反米政権が続々誕生する」
 米国に対する痛烈な皮肉だったが、ムバラク前大統領も今、同じようなことを考えていることが、ひょんなことから明るみに出た。
 グル氏は1980年代、ソ連軍のアフガニスタン侵攻に対して、サウジアラビア総合情報局(GID)とともに、米中央情報局(CIA)の秘密工作に協力した。彼の当時のカウンターパートは、当時のGID長官だったトゥルキ王子とウェブスターCIA長官だった。グル氏はムジャヒディン(イスラム戦士)を訓練し、武器を供給。ソ連軍を撤退させた立役者の1人になったが、イスラム原理主義に近い彼は今、反米の側に付いている。
 イスラム圏の親米独裁政権は、冷戦時代には反共、21世紀は反テロという米国の戦略に協力してきた。しかし今、自国民からレッドカードを突き付けられ、退場を余儀なくされ始めたのである。

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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