AIは軍事作戦を計画するか――米中軍事対立と「データの戦い」

執筆者:高木耕一郎 2023年4月21日
エリア: アジア 北米
「データの戦い」は、戦場でのこうした場面を駆逐してしまうかもしれない (C) Parilov/ Shutterstock.com
米陸軍の幹部たちは口を揃えて、将来の戦争は「データ中心」(Data Centric)であると言う。米中両国において、「チャットGPT」のような「大規模言語モデル」を軍事作戦の計画作成に用いる可能性について、議論が急速に始まっている。AIとAIが利用するデータをめぐる争いが戦争の帰趨を決めることが鮮明化してきた。米中は人工衛星などを用いて双方の軍事データの取得を試みている。

 米国と中国の軍事的な対立が深まっているが、その焦点が「データの戦い」であることは、日本ではあまり知られていない。情報通信技術が発達した現代、そして将来の戦争においては、人工知能(AI)に機械学習を行わせるために入手するデータの質と量が鍵となり、その大量のデータを処理する能力が勝敗を決めることになるのだ。

爆発的に増加した戦争の「データ量」

 2000年代初頭のアフガニスタン戦争、イラク戦争において、米軍は「情報過多」の問題に苦しんだと言われている。当時、人工衛星、航空機、様々なレーダーとセンサー、現場部隊などから、多量のデータがクウェートやカタールにある米軍司令部に集められた。しかし、司令部に集められたデータは多種多様で複雑であり、重複、曖昧性、相互矛盾を含んでいた。当時はAIも発達しておらず、こうした多量のデータを処理し、作戦に役立つように変換することができなかった。

 当時に比べ、現在の戦争におけるデータ量は爆発的に増加している。例えば、画像衛星の解像度が向上し、道路標識や道路の状況まで識別できるものもある[1]。さらに、地形や構築物の高さを検出できる人工衛星も存在する。多数の小型衛星から成るコンステレーションは、1日に何度も同じ場所の上空を通過するため、これまで検知することが難しかった短時間の変化を検出することもできる[2]

 このように、画像衛星から得られるデータを例にとってみても、時間変化を含む4次元方向に拡大し、その量も増加している。例えば、2018年の時点で米国の情報機関は、世界各地の戦闘地域に配備したセンサーなどによって、1日でナショナルフットボールリーグの全試合(272試合)3シーズン分以上の高精細画像を取り込んでいたという[3]。……

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執筆者プロフィール
高木耕一郎(たかぎこういちろう) ハドソン研究所研究員。陸上自衛隊1等陸佐。1978年生まれ。北海道大学工学部卒、北海道大学大学院工学研究科修了後、2004年陸上自衛隊入隊。バージニア大学公共政策学部修了。陸上幕僚監部防衛部防衛課防衛班、統合幕僚監部運用部運用第1課防衛警備班等を経て現職。最近の著作は、”Can China Build a World-Class Military Using Artificial Intelligence?”, Real Clear Defense (February 7, 2023); “Xi Jinping’s Vision for Artificial Intelligence in the PLA”, The Diplomat (November 16, 2022);”Future of China’s Cognitive Warfare: Lessons From the War in Ukraine”, War on the Rocks (July 22, 2022) ; ”New Tech, New Concepts: China’s Plans for AI and Cognitive Warfare”, War on the Rocks (April 13, 2022)、「新領域から『バトル・オブ・ナラティブ』へ」(『戦略研究』、2020年)、「新領域に広がる将来戦と『戦場の霧』」(『国際安全保障』、2020年)、「新領域における将来戦」(『戦略研究』、2019年)、「無人兵器は何処に向かうのか」(『戦略研究』、2018年)など。
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