「東京科学大」誕生の不都合な秘話――大学ファンドに踊らされた東工大・医科歯科大、文科省には4つのメリット
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「うちの大学のロゴもこれで見納めです。まさか途中で大学の名前が変わるとは……」
統合を直前に控えた9月、医科歯科大のキャンパスで大学の銘板(看板)をバックに記念写真を撮る医学部4年生の男子学生が嘆息した。医科歯科大にあこがれて入学したのに、卒業時には「東京科学大卒」になることへの違和感はまだぬぐえないようだった。
医科歯科大は1928(昭和3年)、東京高等歯科医学校として設立。東工大の歴史はさらに古く、1881(明治14年)、東京職工学校として設立された。東工大は大隅良典栄誉教授らノーベル賞受賞者が輩出している国内理工系トップの大学であり、大学名が消えることへの喪失感は医科歯科大以上かもしれない。
若手交流会で進められた地ならし
統合協議が明るみに出たのは2年前の2022年夏だ。統合の理由について東工大の益一哉学長は「日本にはなぜ、GAFAのような企業が生まれないのか。それには東工大の責任もある」と述べ、統合による医工連携に期待を表明。医科歯科大の田中雄二郎学長は「統合で世界と勝負できる大学にする」と説明した。だが、田中学長の本音は、統合のインパクトによって卓越大に助成される年間3000億円を獲得することにあった。田中学長が、学内説明会で統合の理由について、現状の研究資金が少なく、卓越大への認定を再三訴えたことからもうかがえることだ。
東工大と医科歯科大は2001年に一橋大学・東京外国語大学とともに国立大学の4大学連合を形成し、相互に講義を受けられるなどの関係を続けている。しかし、統合協議は一橋大と外語大に声をかけずに進められた。
医科歯科大側には「卓越大に認定されるには東工大との統合が不可欠。医科と歯科では限界があり、東工大との医工連携に重きを置きたい」(医科歯科大関係者)との思いがあり、田中学長が益学長のもとをたびたび訪問して口説き落とした。益学長にも先のコメントのように、日本産業界が低迷する責任の一端を負うという思いがあり、医工連携で開ける可能性に期待した。
トップ同士の合意を受けて、両大学は統合に向けた取り組みを秘密裏に進めていく。公表されていないが、意外にもその取り組みは早い段階で始まっていた。統合に関する大学の内部資料によると、統合協議を発表する半年前の2021年12月に、合宿形式で両大学の若手が参加しての「交流会」を実施していたことが分かる。これを皮切りに教職員や学生が参加する同様の交流イベントを頻繁に開き、統合に向けた動きを用意周到に進めていた。
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