大接戦のアメリカ大統領選挙、もし選挙人の過半数を誰も獲得できなかったらどうなるのか――「同点」だけではない過半数割れシナリオ

執筆者:前嶋和弘 2024年10月24日
エリア: 北米
選出プロセスがで混乱があれば新大統領の正統性にも傷がつく (C)AFP=時事
トランプの追い上げが注目されるが、7つの激戦州は両者互角。勝者は11月5日の一般投票では確定されず、混乱は12月の選挙人投票や上下両院まで及ぶ可能性が出てきている。一般投票で選挙人獲得数が「同点」になるケースはしばしば議論されるが、懸念すべきシナリオはそれに止まらない。法廷闘争になった場合、あるいは米憲法修正第12条にもとづき議会での臨時選挙になった場合に、何が事態の行方を左右するのか。

 僅差の戦いが続いているアメリカの大統領選挙は、果たしてすんなり勝者が決まるかどうか。もし、11月5日にカマラ・ハリスが勝利した場合、「不正」を理由にドナルド・トランプが譲歩しない可能性もあるだろう。もし、12月17日に通常の選挙人投票が行えない州があったら、あるいは選挙人の過半数を誰も獲得できなかったらどうなるのか。そのシナリオを考えてみる。

全くの互角

 間もなく11月の本選挙を迎えるが、今年の場合、「ハリス対トランプ」は世論調査の数字をみると、いまのところ全く互角のようにみえる。激戦州7つの両者の差は、統計的な誤差を考えると差はない。

 どちらも決め手に欠けるため、これだけの接戦になっている。

 トランプは、岩盤支持層は離れないものの、ほかの層からの支持は得にくい。ハリスの場合も、予備選を戦っていないため、選挙戦終盤となっても何となく力弱い。予備選を勝ち抜くのは、田舎侍が戦国武将になる過程だ。ハリスは急に立派な鎧と甲冑を着たようなものだが、「本当に大丈夫か」という不安はぬぐえない。

よみがえる4年前の残像

 4年前の残像はいまだ鮮明だ。

 そもそも不正選挙が実際に証明された例は、アメリカの選挙では稀であり、2020年選挙は公的には「史上最も不正が少なかった選挙である」と結論付けられている1

 しかし、トランプが「この選挙はバイデンや民主党に盗まれた」と言い続け、トランプの敗北を認めない支持者たちが、選挙を確定する21年1月6日に実力行使で連邦議会を襲撃し、死者を出すような惨事になってしまった。

 選挙での政権交代という最も重要な民主主義の仕組みが根源的に揺らいでしまう暴挙だが、保守派の多くは「俺たちの民主主義」を「愛国的な勇敢な戦い」と信じていた。

 その後も保守派からのトランプ人気は全く陰りを見せず、トランプは「20年選挙は不正だ」と言い続け、支持者を鼓舞し続けた。少なくとも昨年夏の段階での世論調査でも共和党支持者の約7割が「20年選挙に不正があった」と信じている2

 選挙を否定する「election denier(選挙否定論者)」という言葉も生まれ、「20年選挙には不正があった」という言説は、保守派にとっては「もう一つの真実」になってしまっている。支持者はこれまで以上に結束しているようにもみえる。

選挙後の不吉なシナリオ

 もし、トランプが11月5日の一般投票で劣勢となった場合、どうなるだろうか。トランプの逮捕・訴追につながった4年前の選挙後の議会襲撃のような手荒なやり方ではなく、より巧妙な戦略をトランプ陣営は取るかもしれない。

 それは、12月に選挙人投票が行われるまでの過程を妨害するという流れだ。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
前嶋和弘(まえしまかずひろ) 上智大学教授 静岡県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。専門は現代アメリカ政治外交。アメリカ学会会長。主な著作は『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022)、『アメリカ政治とメディア』(北樹出版、2011年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著、東信堂、2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)、Internet Election Campaigns in the United States, Japan, South Korea, and Taiwan (co-edited, Palgrave, 2017)など。
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