大接戦のアメリカ大統領選挙、もし選挙人の過半数を誰も獲得できなかったらどうなるのか――「同点」だけではない過半数割れシナリオ
僅差の戦いが続いているアメリカの大統領選挙は、果たしてすんなり勝者が決まるかどうか。もし、11月5日にカマラ・ハリスが勝利した場合、「不正」を理由にドナルド・トランプが譲歩しない可能性もあるだろう。もし、12月17日に通常の選挙人投票が行えない州があったら、あるいは選挙人の過半数を誰も獲得できなかったらどうなるのか。そのシナリオを考えてみる。
全くの互角
間もなく11月の本選挙を迎えるが、今年の場合、「ハリス対トランプ」は世論調査の数字をみると、いまのところ全く互角のようにみえる。激戦州7つの両者の差は、統計的な誤差を考えると差はない。
どちらも決め手に欠けるため、これだけの接戦になっている。
トランプは、岩盤支持層は離れないものの、ほかの層からの支持は得にくい。ハリスの場合も、予備選を戦っていないため、選挙戦終盤となっても何となく力弱い。予備選を勝ち抜くのは、田舎侍が戦国武将になる過程だ。ハリスは急に立派な鎧と甲冑を着たようなものだが、「本当に大丈夫か」という不安はぬぐえない。
よみがえる4年前の残像
4年前の残像はいまだ鮮明だ。
そもそも不正選挙が実際に証明された例は、アメリカの選挙では稀であり、2020年選挙は公的には「史上最も不正が少なかった選挙である」と結論付けられている1。
しかし、トランプが「この選挙はバイデンや民主党に盗まれた」と言い続け、トランプの敗北を認めない支持者たちが、選挙を確定する21年1月6日に実力行使で連邦議会を襲撃し、死者を出すような惨事になってしまった。
選挙での政権交代という最も重要な民主主義の仕組みが根源的に揺らいでしまう暴挙だが、保守派の多くは「俺たちの民主主義」を「愛国的な勇敢な戦い」と信じていた。
その後も保守派からのトランプ人気は全く陰りを見せず、トランプは「20年選挙は不正だ」と言い続け、支持者を鼓舞し続けた。少なくとも昨年夏の段階での世論調査でも共和党支持者の約7割が「20年選挙に不正があった」と信じている2。
選挙を否定する「election denier(選挙否定論者)」という言葉も生まれ、「20年選挙には不正があった」という言説は、保守派にとっては「もう一つの真実」になってしまっている。支持者はこれまで以上に結束しているようにもみえる。
選挙後の不吉なシナリオ
もし、トランプが11月5日の一般投票で劣勢となった場合、どうなるだろうか。トランプの逮捕・訴追につながった4年前の選挙後の議会襲撃のような手荒なやり方ではなく、より巧妙な戦略をトランプ陣営は取るかもしれない。
それは、12月に選挙人投票が行われるまでの過程を妨害するという流れだ。
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