モザイク状に入り組んだ欧州航空産業界に新たな亀裂が生じた。
11月17日、英フィナンシャル・タイムズ紙はドイツ・フランス両政府が共同で取り組んできた将来戦闘航空システム「FCAS(Future Combat Air System)」の開発を中断する高官級協議を始めると報じた。
総事業費1000億ユーロ(約18兆円)規模とされる次世代戦闘機設計・製造の役割分担などを巡り、かねてフランス側のダッソー・アビエーションとドイツ側のエアバス・ディフェンス&スペース[D&S、独ミュンヘン近郊に本社を置くエアバスの防衛・宇宙部門、旧DASA=ダイムラー・ベンツ・エアロスペース=などが合併を繰り返し2014年に発足]が対立していたが、独仏両政府は両社の関係が修復不可能と判断。共同プロジェクトを「戦闘クラウド(Combat Cloud)」と呼ばれる指揮統制システムの開発のみに縮小する方向へ舵を切るとみられる。
「欧州防衛の自立」の象徴
FCASは2000年代初め、フランス、ドイツ、イギリス、イタリア、スウェーデン、スペインの6カ国が実施した兵器システムの将来象を研究する欧州技術取得プログラム(ETAP)の枠組みで議論が進んだ。有人戦闘機、無人機、さらに衛星や航空母艦などから得られる各種データのシステム統合を盛り込んだ新たな防空体制構築を目指し、2014年1月にフランス大統領フランソワ・オランド(71)とイギリス首相デイヴィット・キャメロン(59)の首脳会談で両国によるフィージビリティー・スタディー(FS、実現可能性調査)の実施が決まった。
2014〜16年に英BAEシステムズや仏ダッソーなどが参加するFSが実施され、ダッソーの「ニューロン」やBAEシステムズの「タラニス」といった無人戦闘航空機(UCAV=Unmanned Combat Aerial Vehicle)の試験機の飛行が披露されたが、その後、実証機の開発には至らなかった。また、当初FCASでは新型機開発は無人機に限定し、有人機は「ユーロファイター・タイフーン」(配備先は英・独・伊など)や「ラファール」(仏など)といった従来の4.5世代機をグレードアップして対応する考えだった。これら4.5世代機は1980年代以降開発が進み、2000年代に運用開始。ステルス性能などが米ロッキード・マーチンを中心に共同開発された「F-22」「F-35」といった第5世代機に及ばないとされている。
2017年にアメリカで第1次ドナルド・トランプ政権が発足し、NATO(北大西洋条約機構)加盟国に防衛費負担の大幅増額などを要求するようになると、欧州では自前の制空能力を持つ必要性が叫ばれるようになり、その中で新型戦闘機(いわゆる「第6世代機」)の独自開発の機運が高まった。ドイツは当初財政負担回避を理由にFCASから距離を置いていたが、2017年7月に当時の独首相アンゲラ・メルケル(71)が、「欧州防衛の自立」を掲げて選挙を勝ち抜き、2カ月前に仏大統領に就任したばかりのエマニュエル・マクロン(48)とパリで会談。両首脳は次世代有人戦闘機(NGF=Next Generation Fighter)を共同開発する意向を表明し、2018年6月には両国国防相による覚書で、NGF開発を「フランス主導で進める」方針などを打ち出した。
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