「仙谷官房長官の私的メモ」問題は、情報公開法の根幹に関わる

執筆者:原英史 2010年11月26日
カテゴリ: 政治
エリア: アジア

 

前回エントリーで、「朝鮮学校無償化」に関し、基準や原理原則を無視した「恣意的行政」の問題を指摘した。
同じ文脈で、もう一つ指摘しておきたい。仙谷官房長官の「私的メモ盗撮」問題だ。
 
国会議場内で総理に見せていたメモを望遠レンズで撮影され、仙谷氏は「私的メモが盗撮された」と発言。メディアでは「盗撮」と呼んだことが問題になったが、より深刻な問題は、「私的メモ」と呼んだことの方だ。
 
「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(情報公開法)によると、
・「行政職員が職務上作成・取得」し、「組織的に用いるものとして、行政機関が保有」している文書は、「行政文書」にあたり、
・「行政文書」は原則として、情報公開の対象になる。
今回のメモは、官房長官が内閣官房職員に作成させ、総理に示して相談ないし説明していたもの(総理に示している場面はテレビでも繰り返し放送された)。
常識的な法令解釈によれば、「私的メモ」ではなく、「行政文書」にあたるはずだ。
 
 ところが、政府は、これを「私的メモ」とし、公開すべき文書ではないとの立場をとり続けている。
この点を質した中川秀直衆議院議員(自民党)の質問主意書に対し、11月26日、政府は「行政文書には当たらない」との答弁を正式に閣議決定した。
「官房長官が自らの考えを記した個人的な手控え」であって、「組織的に用いるもの」ではなかったという理由だ。
 
これは、法令解釈として大いに疑義がある。「官房長官自らの考え」をメモにしただけだというが、
・「官房長官が部下に命じて、自らの考えを文書化し、上司である総理に示して相談ないし説明」した文書が、「私的メモ」だというなら、
・「役所の課長が部下に命じて、自らの考えを文書化し、上司である局長に示して相談ないし説明」した文書も、「私的メモ」になってしまう。
 
 これでは、役所の検討段階の文書は、ほぼすべて「私的メモ」になりかねない。「政策の検討プロセスを事後的に検証可能にする」という、情報公開制度の重要な機能が損なわれてしまうことになる。
(もちろん、これまでの運用上は、こうした検討過程の文書も「行政文書」と扱ってきたわけだが・・)
 
情報公開の重要性を唱え続けてきた民主党政権が、よもや、「情報公開の否定」に転じたわけではあるまい。
それならば、強引な法令解釈で、都合の悪い文書は「私的メモ」として隠ぺいするようなことも、すべきではないだろう。
 
(原 英史)
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執筆者プロフィール
原英史(はらえいじ) 1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『国家の怠慢』(新潮新書)など。
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