インド5州議会選、与党「敗北」で改革は減速するのか

執筆者:山田剛 2012年3月8日
カテゴリ: 国際 政治 金融

 6日に開票したインド5州の州議会選挙で、中央与党の国民会議派(コングレス)が党勢拡大に失敗、最大州の北部ウッタルプラデシュ州では事実上の敗北を喫したことで、外資規制の緩和や財政再建など積み残した経済改革がスローダウンするのでは、との懸念が出てきた。2014年春に次期総選挙を控え、前年の13年度は予算や政策にバラマキ色が強まることが確実。2012年度は改革を推進する最後のチャンスと見られていただけに、春以降の経済政策のゆくえに俄然注目が集まりそうだ。

 
今回投開票を実施したのはヒンドゥー教の聖地バラナシーやかの有名なタージ・マハルがあり、2億人超の人口を抱えるウッタルプラデシュ州をはじめ、パキスタンと国境を接する穀倉地帯の北西部パンジャブ州、アラビア海沿岸のリゾート地やポルトガル植民地時代の教会群で知られる南部ゴア州、北部ウッタラカンド州、ミャンマーに隣接する北東部マニプール州の5州(いずれも任期5年)。与党国民会議派はマニプールで州政権を維持したものの、ゴアで惨敗。ウッタラカンドでは辛勝。他の2州ではわずかに議席を増やしたが、州政権奪回には遠く及ばなかった。
とりわけウッタルプラデシュ州は国会下院(定数545議席)でも80議席が割り当てられている最重要州。今回の州議会選で国民会議派は、次期首相の最有力候補と目されるネール・ガンディー家4代目(現総裁ソニア・ガンディー氏の長男)ラフル・ガンディー党幹事長(41)を前面に押し立てて必勝を期したが、おひざ元選挙区の候補も落選するなど苦戦続きとなった。
 
インドの政治、とりわけ地方政治には宗教やカーストなど複雑な力学が影響するため、選挙の結果分析は簡単ではないが、製造業を中心とした経済の減速や、中央連立与党内で相次いだ汚職やスキャンダルなどが響いたことは間違いないだろう。
 
 となると気になるのは「バラマキ政策」の前倒し展開だ。09年総選挙に際して国民会議派主導の連立政権は、約3兆円にも及ぶ農民の借金棒引きという驚くべき政策を断行したが、結果的にはこれが勝利に大きく寄与したといわれている(これにより多くの借り手がモラルハザードを起こし、その後のマイクロファイナンスにおける焦げ付き増加などの悪影響をもたらしたのだが)。人気取り政策の実施という誘惑が強まることは十分予想される。
 だが、再び高度成長軌道に回復しつつあったインド経済に減速リスクが高まる中、最も必要とされるのは成長重視かつ内外からの投資を呼び込む政策だ。そのためには小売業をはじめ、金融・保険部門における外資規制の緩和、補助金の削減・合理化による財政赤字の削減とインフラ投資の拡大などが当然必要になってくる。政権が今回の選挙結果に動揺し、人気取りやバラマキに傾斜すれば、これらの改革はまったくの画餅となりかねない。実際、今月16日に発表される12年度予算案には早くも「一部修正」の観測が浮上。財務省が小売市場開放プロセスの先送りをする、との報道も出ている。
ただ、ウッタルプラデシュ州で大勝し、州政権を奪回した社会主義党(SP)も、党首の息子で清新なイメージながら押し出しも強いアヒレーシュ・ヤダブ下院議員(38)主導のキャンペーンが成功したとはいえ、マニフェストの中身は「中学生にタブレットPCをプレゼント」や、「イスラム教徒の女子児童に3万ルピー(約4万5000円)を支給」「サトウキビの政府買い入れ価格を50%引き上げ」――など旧態依然。経済政策でも「電力網整備」や「投資環境の改善」を掲げるなど与野党で大差はなかった。決して中身のある政策論争が勝敗の決め手になったわけではなく、勝てなかった国民会議派も過剰に「自己批判」する必要はないだろう。
今年9月に80歳となるマンモハン・シン首相には指導力低下も指摘され、首相交代の観測すら出る始末(これは7日にガンディー総裁が明確に否定)だが、「中央と地方は別」という見方もまた成り立つ。もともとインド政治では連邦と州政府の「ねじれ」常態化が前提となって動いている。株価の下落も心配したほどではなく、財界や有力経営者らも希望的観測も込めて軒並み「改革路線の継続」に期待を表明している。
 いずれにせよ、現政権にとって2012年が一足早い「改革の総仕上げ」となるのはほぼ間違いないだろう。シン首相ら指導部が長期的視野に立って道半ばの改革を再び加速させることができるのかどうか。インドの政治家の常として「成長よりも政権安定」を選んで日和見に走る可能性もないわけではないが、個人的には彼らの知恵と勇気に期待している。
                       (山田 剛)
この記事は役に立ちましたか?
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
この記事をSNSにシェアする
執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
comment:0
icon
  • 記事の閲覧、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。
フォーサイトのお申し込み
注目記事ランキング
  • 24時間
  • 1週間
  • f
最新コメント
最新トピック
  • 新着
  • 高評価
  • コメント数順