経済の頭で考えたこと
経済の頭で考えたこと(51)

元頭取が告白したバークレイズ銀行の汚点

田中直毅
執筆者:田中直毅 2012年7月24日
カテゴリ: 金融
7月4日、金利不正操作問題で証言後、英議会公聴会の現場から去る前バークレイズ銀行CEOのダイアモンド氏 (C)EPA=時事
7月4日、金利不正操作問題で証言後、英議会公聴会の現場から去る前バークレイズ銀行CEOのダイアモンド氏 (C)EPA=時事

 英銀行バークレイズのLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)をめぐるスキャンダルが次々と明るみになる中、7月8日のフィナンシャル・タイムズの電子版(FT.com)に極めて興味深い寄稿が掲載された。バークレイズのCEOを辞職したボブ・ダイアモンドのかつての上司で、同行の頭取だったマーティン・テイラーによるものである。タイトルは「私もダイアモンド神話に陥落した」。過去十数年のバークレイズの歴史にかかわるかつての部内者、それも旧トップからの一種の告発といってもよい。LIBORの操作が自社や個別トレーダーの利潤動機から生じていたとしても不思議ではないことがよくわかる内容だ。

「ビッグバン」の中で

 1997年秋、テイラー頭取はバークレイズ銀行傘下で投資銀行ビジネスを行なっていた部門を売却した。それは英国の商業銀行としての伝統をもつバークレイズ銀行の本業への回帰を図るものだった。
 1980年代半ばから始まるビッグバンという大金融改革の中で、バークレイズ銀行も右往左往した。英国では伝統的に預金口座を開設し、貸越(オーバードラフト)という形をとった信用供与枠組を基本とする商業銀行が地盤を造ってきた。
 これとは別にマーチャント・バンクと呼ばれる投資銀行業務を行なう銀行も存在した。7つの海を支配していた英国の国力を背景として、たとえば香料を買い込んでくる商船を仕立てるような業務などに機縁をもつものである。
 そうした投資銀行は、ビッグバンの直前には、国有企業の民営化プロジェクトにも携わるようになっていたが、自己資本不足からリスク負担能力の欠如が明らかだった。
 したがって、商業銀行とマーチャント・バンクとの一体経営というビジネスモデルは、確かに1つの打開手法のはずであった。
 しかし実際には企業文化は農民と猟師の違いに匹敵するものだったといってよい。一旦は投資銀行部門としてM&Aの対象としたが、テイラー頭取の下した結論は「再分離」であった。
 ところが、この投資銀行部門の売却はバークレイズ銀行の内外で大論争を引き起こした。その1つの銀行内の反応が、銀行本体の内側に残されていたバークレイズ・キャピタルという投資銀行業務の大拡大であった。「再分離」は半年もすると逆流を生んでいたのである。そして取締役会でもバークレイズ・キャピタルを率いるダイアモンドへの信認は高まるばかりであった。

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執筆者プロフィール
田中直毅
田中直毅 国際公共政策研究センター理事長。1945年生れ。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始める。専門は国際政治・経済。2007年4月から現職。政府審議会委員を多数歴任。著書に『最後の十年 日本経済の構想』(日本経済新聞社)、『マネーが止まった』(講談社)などがある。
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