見えてきた「習近平時代の中国」(上)「18大」へ向け権力闘争が激化

執筆者:藤田洋毅 2012年8月15日
カテゴリ: 国際 金融
エリア: 中国・台湾

「海里(海の中)、大荒れです。10年に1度の恒例の内闘(内ゲバ)に、今回は薄熙来失脚という特大事件まで重なりましたから……」――中国国務院(中央政府)の中堅幹部は、打つ手なしといった表情でこぼした。 「海里」とは、共産党中央や国務院の指導者らの弁公室(複数の秘書を擁する個人執務室)と事務機構が集中する中南海を略した呼称。北京の中心・天安門から北に広がる故宮(旧紫禁城)の西隣、広大な一角を占める。2つの人造湖、中海と南海を由来に名づけられ、明朝時代に宮殿の造営が始まり、清朝から現在の共産党王朝に到るまで、中国の権力中枢の所在地である。

「海里」という別世界

 手入れの行き届いた芝生、チリ1つ落ちていない掃き清められた広々とした道路。軍の最精鋭部隊・党中央弁公庁兼軍総参謀部の警衛局(旧8341団。団は連隊の意)が警備し、一様に髪を短く刈り上げた精悍な制服姿の兵士が直立不動で進路に沿って立つ。中国の指導者と外国の要人らの会見や重要会議の舞台となることが多い紫光閣、懐仁堂などに近づくと、さらに眼光鋭い背広姿の兵士が展開、賓客が乗る車が到着したら素早く走り寄ってドアを開ける。左手はトランシーバーを握り締め、胸には小型自動小銃を秘めているという。絶えず周囲に視線を走らせ、一瞬たりとも不穏な兆候を見逃さない、鉄壁の布陣だ。
 かつて、中国と世界を隔てる壁を「竹のカーテン」と呼んだ。ゴミが散乱し交通渋滞が日常風景の老百姓(庶民)にとって「海里」は、今でも鈍い紅色の高い壁に隔てられた別世界である。しかも、単なる地名ではない。例えば友人を紹介される際、「他是海里人(彼は海の中の人です)」とか「他在海里弁公(彼は海の中で仕事しています)」の一言だけで、それ以上の説明は不要。政権中枢の実情に通じた有力幹部だと分かるのである。
 筆者も、若干の「海里人」と交流する。それぞれ所属する部門や担当は異なるが、名刺にはみな「中央○○局局長 某某」、「郵便番号100017 私書箱17×× 中国北京市中南海」とあっさり表記するのみ。携帯電話番号はおろかメールアドレスすら記載していないことも多く、必要なら個別に聞き出すしかない。ほんの限られた狭い経験に過ぎないが、意図的に「海里」の神秘性を高めているのではないかと勘ぐりたくなるほどだ。
 その「海里」が荒れている。すなわち神秘のベールに包まれた中国の権力中枢に、かつてなかった大暴風が吹き荒れていると、複数の「海里人」は明言した。言うまでもない。10月下旬に開催する予定の第18回中国共産党全国代表大会、いわゆる第18回党大会(18大)で、最高指導部である政治局常務委員9人のうち、胡錦濤総書記(69、年齢は7月1日時点。以下同)ら7人が引退、大幅に顔ぶれが交代するからだ。熾烈な権力闘争が繰り広げられているのである。

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