シンガポール首相の訪中で浮き彫りになった中国の「西進戦略」

樋泉克夫

 8月末、シンガポールのリー・シェンロン(李顕龍)首相が中国を訪問し 、26日に李克強首相との会見後、27日には新疆ウイグル自治区でウルムチ市共産党委員会の朱海侖書記と会談した。今回の新疆訪問の狙いは、シンガポールと中国の協力関係を新疆にまで拡大することにあるようだ。

 広大な新疆にはエネルギー資源を含む豊富な天然資源が埋蔵されているだけに、リー首相は朱書記に対し、

 「極めて高い発展の可能性を秘めると同時に、魅力溢れる地域だ」

 と語ると共に、シンガポールと新疆は異なった宗教を持つ多くの民族が融和して暮らす多元社会として共通している故に、将来的には双方の民族と宗教の融和を目指し、より効果的な社会管理方法を共同研究したい、と提案している。

 まさかリー首相は、ウイグル独立運動に対する共産党政権の容赦のない力の対応が伝えられて久しい新疆ウイグル自治区の現状を、シンガポールと同じく、

 「異なった宗教を持つ多くの民族が融和して暮らす多元社会」

 などと本気で考えてはいないと思うが、そこは外交辞令ということだろう。

 これに対し朱書記は、2005年のシンガポールへの研修旅行での体験を踏まえ、シンガポールでみられる国会議員と民衆の密接な関係は、

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執筆者プロフィール
樋泉克夫
樋泉克夫 愛知大学教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年より現職。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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