ウクライナの現在(上)「民主化」は進んでいるか

 ウクライナ情勢は、解決にはほど遠い混迷ぶりを示している。一方の当事者であるロシアは、欧米諸国の制裁をものともせず、親ロ派勢力への大規模な軍事支援を続けている。その結果、東部ドンバス地方の戦闘は泥沼化し、落としどころも見えない状況だ。

 長引く紛争は、ウクライナの社会全体を蝕みつつある。通貨グリブナが暴落し、物価が上昇する一方、人々は収入を削られ、首都キエフでも生活が苦しくなっている。経済のさらなる悪化も予想され、先行きの見えない不安が街を覆う。

 こうした状況下、この国を巡る騒動の最初に問われていた「民主化」について論じる声も、次第に小さくなった。昨年11月のデモの発生から今年2月のヤヌコヴィッチ政権崩壊まで、人々の意識の根底にあったのは、民主化と腐敗追放への願いだった。それが、ロシアの介入によって、「ウクライナはロシアにつくかEU(欧州連合)につくか」といった、市民にとって危急でも何でもない問いかけにアジェンダが設定し直されてしまったのである。

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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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