行き先のない旅
行き先のない旅(52)

アルルへの熱き思いと日欧「文化受容」の誤差

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2007年9月号
カテゴリ: 国際 文化・歴史

 南仏の公演のあいだに、かねてから行きたかったアルルの町を訪れてみた。アルルといえば、まずアルフォンス・ドーデ作の「風車小屋だより」の「アルルの女」が浮かぶ。 主人公フレデリは、二十歳になる村の旧家の長男で、一本気な青年。ある日、アルルの闘牛場で息をのむような美女を見かけ恋に落ちた彼は、あの女と結婚できないなら、いっそ死にたいとまで思いつめ、日に日に衰弱していく。母は心配のあまり、結婚を許そうと思うが、遊びなれたアルルの女には情夫がいた。かねてから息子に想いを寄せる純朴な村娘に、母は彼を慰めるように頼み、フレデリは家族に心配をかけまいと、村娘との結婚を決意する。町が守護聖人のお祭りに沸き返る中、結婚式を目前にしたフレデリは、アルルの女が情夫と駆け落ちすると聞き、嫉妬に狂って、高い窓から身を投げてしまう。 ジョルジュ・ビゼーが三十四歳のとき、この戯曲に数週間で劇音楽をつけたのだが、特に有名なのは、この地方の舞踊曲であるファランドールだろう。プロヴァンスの太鼓がリズムをきざみ、その上にフルートとクラリネットが、恋に浮かされたフレデリの熱っぽい心のようにメロディーを奏でる。お祭り騒ぎで沸き返る町と嫉妬の狂気が不可分になってクライマックスをむかえるこの曲は、学校の音楽の授業でもよく聞かされた覚えがある。

この記事は役に立ちましたか?
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
この記事をSNSにシェアする
執筆者プロフィール
大野ゆり子
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
comment:0
icon
  • 記事の閲覧、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。
フォーサイトのお申し込み
価値あるバックナンバー
注目記事ランキング
  • 24時間
  • 1週間
  • f
最新コメント
最新トピック
  • 新着
  • 高評価
  • コメント数順