ブックハンティング・クラシックス
ブックハンティング・クラシックス(32)

経済の「壮大なドラマ」を描いた孤高の天才シュンペーター

執筆者:吉川洋 2007年11月号

『経済発展の理論(上・下)』ヨーゼフ・A・シュムペーター著/塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一訳岩波文庫 1977年刊 溢れるほどの情報の中でいつもしっかりとした指針を与えてくれる。これこそが「古典」の価値だ。そうした古典に数えられる一冊、シュンペーターの『経済発展の理論』を紹介することにしたい。 ヨーゼフ・A・シュンペーター(一八八三―一九五〇)はケインズと並んで二十世紀を代表する経済学者である。「イノベーション」という概念の生みの親であり、それこそが資本主義経済の核心であることを見抜いた。 十九世紀から二十世紀の初めにかけてオーストリア・ハンガリー帝国の首都ウィーンでは爛熟した文化が花開いた。美術のクリムト、音楽のマーラーは、この時代のウィーンの文化を代表する。芸術だけではなく、ウィーン大学からもまた物理学のマッハ、ボルツマン、精神医学のフロイトなど様々な分野で大学者が輩出した。経済学も例外ではなかった。 経済学は『国富論』(一七七六年)を著したアダム・スミス以来イギリスのお家芸だった。しかし十九世紀も後半になると「本家」イギリスのほかにフランス(フランス語圏のスイスを含む)やウィーンに大経済学者が登場する。ウィーンにおける経済学の礎を築いたカール・メンガー、その後を継いだベーム・バヴェルク。そしてこのバヴェルクのセミナーに集った若き俊秀の一人がシュンペーターであった。そこには後にノーベル経済学賞を受賞することになるハイエクのほか、優秀なマルクス経済学者の卵も数多くいた。マルクス経済学の古典『金融資本論』の著者ヒルファーディングもバヴェルクのセミナーに参加し、シュンペーターやハイエクを相手に資本主義の「矛盾」について熱く語っていた。シュンペーターが資本主義を論じるとき、いつも対立候補としての社会主義を強く意識したのは、若き日のこうした経験に根ざしていた。

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