【ブックハンティング】英国医療の悪夢と改革から日本が学ぶべきこと

執筆者:鈴木亘 2009年11月号
カテゴリ: 国際 書評
エリア: ヨーロッパ

『公平・無料・国営を貫く英国の医療改革』(武内和久・竹之下泰志著)というタイトルを見て、英国の医療制度は「夢」のような制度であると勘違いする人々がいるかもしれない。しかし、現実はそう甘くはない。英国の医療制度は、夢は夢でも「悪夢」の方に幾分近い。 英国の医療システム(NHS)といえば、実は、患者の「待ち行列(待機者)」が非常に深刻であることで世界的に悪名高い。「風邪をひいて医者に診察を申し込んだところ、一週間後の予約がようやく取れたが、診察までに風邪は自然に治ってしまった」「健康診断でガンが発見されたが、手術の順番が回るのに半年以上かかる」などという、日本人にとっては冗談のような事態が日常的に起きている。 なぜ、このような待ち行列が生じているかといえば、それは医療費が無料であるからだ。すなわち、英国では医療保険が存在せず、医療費は全て公費(税金)で賄われるために、患者の自己負担は眼科や歯科の一部の例外を除き、全く存在しない。無料のものには需要が殺到するのが世の常である。その結果、異常な待ち行列が発生し、必要な時に必要な人々が医療を受けられなくなるのである。待ち行列は見方を変えれば、「医師不足」ということでもある。その意味で、英国は究極の医師不足社会であるとも言える。

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執筆者プロフィール
鈴木亘 1970年生れ。上智大学経済学部卒。日本銀行勤務。大阪大学大学院修了(経済学博士)。大阪大学社会経済研究所、日本経済研究センター、東京学芸大学を経て、2009年4月より現職。規制改革会議専門委員(保育担当)。主著に『生活保護の経済分析』(共著、東京大学出版会、第51回日経・経済図書文化賞)、『だまされないための年金・医療・介護入門』(東洋経済新報社、第9回日経BP・BizTech図書賞)がある。
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