「第2回核実験前」に似る北朝鮮の「政」「軍」関係

平井久志
執筆者:平井久志 2010年12月2日
カテゴリ: 国際
エリア: 朝鮮半島
11月30日に韓国国内で行なわれた北朝鮮の砲撃に対する抗議集会  (C)時事
11月30日に韓国国内で行なわれた北朝鮮の砲撃に対する抗議集会 (C)時事

 北朝鮮は11月23日午後2時34分、韓国の黄海にある延坪島に突然砲撃を始めた。砲撃は同2時55分まで続き、韓国軍は同2時47分ごろからK9自走砲による反撃の砲撃を開始し、韓国側は最高レベルの警戒態勢である「珍島犬1」を発令した。北朝鮮は、午後3時11分から2度目の砲撃を始め、韓国軍は同3時25分から同じくK9自走砲の反撃を行なった。  北朝鮮の砲撃約170発のうち約80発が延坪島に着弾し、住民2人、兵士2人が死亡、約20人が重軽傷を負った。砲撃戦直前には北朝鮮側はミグ23戦闘機が出動、韓国側もF15K戦闘機やKF16戦闘機が出動し、まかり間違えばさらに戦闘が拡大した可能性もあった。  1953年に朝鮮戦争の休戦協定が締結されて以降、領土への初めての砲撃という最大規模の攻撃であり、住民をも対象にした点は明らかにこれまでの軍事衝突と次元が異なり、休戦協定違反であることは明白だ。  この砲撃の最大の疑問は、北朝鮮の戦略的な意図が明確でないことだ。

無に帰した外交攻勢

 北朝鮮は9月28日の党代表者会で労働党指導部を再編し金正恩(キム・ジョンウン)後継体制づくりに本格的に着手した。10月10日の党創建65周年、10月25日の中国人民志願軍参戦60周年で国内体制整備と中国の支持、支援を固め、いよいよ外交・安保分野への攻勢に出た。
 11月に入るとプリチャード元朝鮮半島和平担当特使(2日から6日)、ヘッカー国際安保協力センター所長一行(9日から13日)、モートン・アブラモウィッツ元国務次官補らの研究者グループ(15日から18日)と、米国の外交や安保分野の専門家たちを次々に招待した。
 そして新たな軽水炉建設やウラン濃縮の成功などを、彼らを通じて米国に伝えた。これは核カードを切って、米国を対話に引き込む戦略とみられた。
 また、韓国との南北関係も3月の哨戒艦沈没事件による深刻な対立を乗り越えて、コメ5千トンを含む100億ウォン(約7億2千万円)相当の人道支援提供の通告(9月13日)、離散家族の再会(10月30日~11月5日)が行なわれ、さらに北朝鮮側は、外貨収入確保に向け金剛山観光の再開を強く韓国側に求めていた。水面下では南北首脳会談へ向けた接触を行なっていたという報道もあった。 
 しかし、今回の砲撃で6カ国協議の再開を含めた米朝協議の場は遥かに遠のき、韓国との関係改善は完全に中断に追い込まれた。3月の哨戒艦沈没は北朝鮮がこれを強く否定したが、今回の砲撃では韓国の住民に死者が出たことで韓国側の北朝鮮非難の声はこれまでとは異なる強いものとなった。
 通常の論理的思考をすれば、党代表者会で国内体制を整備し、中国の支援を確保すれば、次は対外関係の安定に向かうはずである。事実、今秋訪朝したある人物は北朝鮮当局者から「2012年に強盛大国の大門を開き、後継体制を軌道に乗せるには安定した環境が必要だ」と説明を受けたという。ところがまったく逆の結果となった。これはこの当局者が嘘を言ったというよりは、対外部門の担当者たちを超えたレベルで今回の砲撃が行なわれたことを意味する。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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