経済の頭で考えたこと (80)

「マイナス金利」政策が問う「貨幣」「銀行」とは何か?

執筆者:田中直毅 2016年2月29日
タグ: 日銀 中国 日本
エリア: アジア

 1月29日に日本銀行の黒田東彦総裁は金融機関が日銀に預ける当座預金の一部についてのマイナス金利の適用を決めたと発表した。そして2月16日からは新たに日銀に積み上がる預金に負の金利が適用された。しかし、株価や円レートは日本の金融事情の変更だけで決まるものではない。足元においては不透明な中国の経済実態と政策の手詰りについての不安感が強く、これが安全資産の日本国国債(JGB)の買いを誘発する側面が顕著だ。このため黒田総裁の意図は市場では達せられていない、との見方が出る。これに対して黒田総裁は「もしマイナス0.1%が力不足ならば、更にマイナス幅を広げることは可能」と当初から述べている。異次元の金融緩和の道筋にはまだまだ先があると述べているも同然といえよう。
 黒田氏の経済学の教養の基本はオックスフォード大学留学中にできている。どの教科書が印象深かったのか、どの学者の叙述にセンスを感じたのか、などについては黒田氏自身が多少印象を語っているが、私はオックスフォード大学の名誉教授であったジョン・ヒックスの手になる『クリティカル・エッセーズ』は間違いなくその1つだと判断している。それは彼がオックスフォード大学に在籍した1970年前後に、この書がもつ説得力にかかわって、多くの研究者が読み合わせをしていたからである。遠い昔のことになるが、当時の経済学はひとつにまとまっていたといえる。ヒックスの経済、とりわけ投資と金融についての記述は、万古の歴史を通底する深味を持つものだ。人類の歴史のなかに置けば、いま言う「異次元」も特別突飛なことではない。

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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