高速鉄道建設:「中国の提案」を拒否した「タイの深謀」

執筆者:樋泉克夫 2016年4月4日
エリア: アジア

 ここ7、8年ほど、タイと中国の間で最大の懸案だったタイの高速鉄道建設問題に、ようやくタイ政府が結論を下した。中国側の提案を拒否し、自力で建設するというのだ(これまでの経緯はこちらを参照→2015年10月13日「高速鉄道建設:日本は『タイ』では中国に勝てるのか」)。

 

 3月24日、プラユット首相は記者団に向かって、「目下の国内情勢に立って自前での建設を決定した。こういう形で建設されてこそ、高速鉄道はタイ国民の財産となり、東北タイの開発と固有の資源を総合的に結びつけることができるだけでなく、東北タイの交通網建設の出発点とすることができる」と語り、中国からの協力・援助を求めず、自力による高速鉄道建設に踏み切ることを明らかにした。計画では、中国側が提案しているバンコクからノンカイまでではなく、中継点にあたるコーラート(ナコンラチャシマ)までの250キロ。コーラートはタイでは最貧といわれる東北タイの中心都市ではあるが、カンボジア、ラオス、さらにヴェトナムに対する軍事的要衝であり、同地区を管轄する第2軍管区司令部が置かれている。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
樋泉克夫(ひいずみかつお) 愛知県立大学名誉教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年から2017年4月まで愛知大学教授。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top