南シナ海問題:インドネシアの「対中穏健路線」は不変か

執筆者:川村晃一 2016年5月9日
エリア: アジア

 これまでインドネシアは、中国と東南アジア諸国の間で生じている南シナ海の領有権問題に直接は関与してこなかった。中国の主張する領海とインドネシアの領海が直接重なることはなかったからである。そのためインドネシア政府は、この問題をめぐって対立が深刻化しつつある中国と、ベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国との間を取りもつ「良き仲介者」として、東南アジア諸国連合(ASEAN)の場を通じて平和的に紛争を解決しようと努力してきた。

 しかし、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権が目玉政策として推し進めている密漁対策と中国の海洋進出が、互いの「主権と国益の維持」をめぐってインドネシアの領海で衝突するという事件が3月に発生した。また、アメリカがフィリピンと協力して南シナ海問題への関与を深めつつある一方、中国は東南アジアの親中派に接近してASEANの分断を図ろうとするなど、インドネシアのこれまでの外交のあり方を問い直すような事態が進みつつある。ジョコウィ政権は、これからのインドネシアと中国の関係をどうしようと考えているのだろうか。

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
川村晃一(かわむらこういち) 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 海外調査員(インドネシア・ジャカルタ)。1970年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、ジョージ・ワシントン大学大学院国際関係学研究科修了。1996年アジア経済研究所入所。2002年から04年までインドネシア国立ガジャマダ大学アジア太平洋研究センター客員研究員。2024年からインドネシア国家研究イノベーション庁(BRIN)客員研究員。主な著作に、『教養の東南アジア現代史』(ミネルヴァ書房、共編著)、『2019年インドネシアの選挙-深まる社会の分断とジョコウィの再選』(アジア経済研究所、編著)、『新興民主主義大国インドネシア-ユドヨノ政権の10年とジョコウィ大統領の誕生』(アジア経済研究所、編著)などがある。
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