南シナ海問題:インドネシアの「対中穏健路線」は不変か

川村晃一

 これまでインドネシアは、中国と東南アジア諸国の間で生じている南シナ海の領有権問題に直接は関与してこなかった。中国の主張する領海とインドネシアの領海が直接重なることはなかったからである。そのためインドネシア政府は、この問題をめぐって対立が深刻化しつつある中国と、ベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国との間を取りもつ「良き仲介者」として、東南アジア諸国連合(ASEAN)の場を通じて平和的に紛争を解決しようと努力してきた。

 しかし、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権が目玉政策として推し進めている密漁対策と中国の海洋進出が、互いの「主権と国益の維持」をめぐってインドネシアの領海で衝突するという事件が3月に発生した。また、アメリカがフィリピンと協力して南シナ海問題への関与を深めつつある一方、中国は東南アジアの親中派に接近してASEANの分断を図ろうとするなど、インドネシアのこれまでの外交のあり方を問い直すような事態が進みつつある。ジョコウィ政権は、これからのインドネシアと中国の関係をどうしようと考えているのだろうか。

 

中国巡視船が密漁船を強奪

 インドネシア政府は、2014年10月にジョコウィ政権が発足して以来、広大な自国海域における密漁対策を強化している。ジョコウィ大統領の目玉政策である「海洋国家」構想では、海洋資源と海洋インフラの開発が中心に据えられている。しかし、野放しにされている違法操業が、水産業の振興と水産資源の保護の大きな障害となっていた。そこで起業家出身の女性大臣スシ・プジアストゥティが主導して「違法・無報告・無規制」漁業の取り締まりが強化され、密漁船が次々と拿捕されるようになった。しかも、スシ大臣は、拿捕した漁船は爆破沈没させる措置を断行し、これまでに170隻以上を海に沈めた(2015年6月4日「インドネシア『やり手女性起業家』大臣がリードする『海洋国家』構想」参照)。

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執筆者プロフィール
川村晃一
川村晃一 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 地域研究センター副主任研究員。1970年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、ジョージ・ワシントン大学大学院国際関係学研究科修了。1996年アジア経済研究所入所。2002年から04年までインドネシア国立ガジャマダ大学アジア太平洋研究センター客員研究員。主な著作に、『2009年インドネシアの選挙-ユドヨノ再選の背景と第2期政権の展望』(アジア経済研究所、共編著)、『インドネシア総選挙と新政権-メガワティからユドヨノへ』(明石書店、共編著)、『東南アジアの比較政治学』(アジア経済研究所、共著)、『新興民主主義大国インドネシア-ユドヨノ政権の10年とジョコウィ大統領の誕生』(アジア経済研究所、編著)などがある。
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