オバマ「核先制不使用」(下)日本「核武装」は「憲法違反」?

伊藤俊幸
執筆者:伊藤俊幸 2016年9月6日
カテゴリ: 国際 外交・安全保障

 オバマ米大統領の「核先制不使用」宣言は、P5(5つの国連安保理常任理事国)すべてにも同じ宣言を求めるものになるといわれている。

「核先制不使用」宣言のポイントは

 中国は以前から2011年国防白書まで「核先制不使用」を明言していたが、2013年白書からは、この記述がなくなった。米露に追いつけ追い越せと核保有国としての地位を高めてきた今、この宣言に乗るであろうか?
 また、ロシアのプーチンは日本ではそれほど強く認識されていないが、今やアメリカ国防総省の脅威対象のNO.1である。グルジア、ウクライナの対応で、国連憲章による戦後レジームをないがしろにしてきた張本人という位置付けだ。NATOもこれまで以上にロシアの動向に最大限の注意を払っており、今度の宣言もロシアの出方が大きなポイントになる。
 ただこの両国は、米、英、仏と異なり、たとえ「核先制不使用」を宣言したとしても、簡単にそれを覆すかもしれない恐ろしさがある。アメリカも当然この両国との交渉においては織り込み済みであろうことから、注目しておく必要がある。

自ら「ならず者国家」になる選択

 アメリカの「核先制不使用」宣言は、日本の防衛があらゆる意味で脆弱になるのではないか――そんな考えから、「日本核武装論」が一部で再燃しているようである。が、筆者はそれに賛同できない。
 日本が核兵器を持つことは、軍事的には不可能ではない。潜水艦の魚雷発射管から発射可能な核搭載トマホークミサイルを導入するのが最も現実的だろうが、アメリカがそれを日本に売るという保証はない。
 ならば自国でゼロから開発といっても、ベースになる技術に乏しい。日本が持つミサイルは地対空と地対艦ミサイルのみで、地対地ミサイルは保有しておらず、この開発から始めなければならないので、時間も予算も非常にかかることになる。
 しかしそれ以上に問題なのは、「核武装」がすなわち日本自身の国際的地位を落とすことになる、ということである。
 長年、核開発疑惑がもたれてきた北朝鮮やイランを、われわれは「ならず者国家」と呼んできた。一方日本は国際協調を旨とし、国際社会の一員として、NPT(核不拡散条約)体制もきちんと守ってきた。
 共和党大統領候補のトランプ氏がたとえ「日本核武装容認」を打ち出したとしても、それに乗じて本当に核武装するということはNPT体制を否定し、国際協調という戦後レジームを自ら否定することになる。つまり日本が核武装することは、「ならず者国家」に成り下がることを意味するのだ。
 確かに、イギリスやフランスは冷戦初期において、アメリカの「核の傘」の信頼性がないと断じ、自ら核保有国となることを選択したが、それは60年以上前の話である。その後、NPT体制は確立され、米、露、中、英、仏だけが保有国として認められた。その後インドやパキスタンなども核クラブに入ったが、正式には認められていない。
 資源のほとんどを輸入に頼り、海外への輸出で繁栄を維持してきた日本が、国際社会の枠組みを無視して生き残れるだろうか。

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執筆者プロフィール
伊藤俊幸
伊藤俊幸 元海将、金沢工業大学虎ノ門大学院教授、キヤノングローバル戦略研究所客員研究員。1958年生まれ。防衛大学校機械工学科卒業、筑波大学大学院地域研究科修了。潜水艦はやしお艦長、在米国防衛駐在官、第二潜水隊司令、海幕広報室長、海幕情報課長、情報本部情報官、海幕指揮通信情報部長、第二術科学校長、統合幕僚学校長を経て、海上自衛隊呉地方総監を最後に2015年8月退官。
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