朴槿恵政権の「崔順実ゲート」(中)米国が懸念した「ラスプーチン」の存在

平井久志
執筆者:平井久志 2016年11月2日
カテゴリ: 国際 政治 社会
エリア: 朝鮮半島
ソウルでは朴槿恵大統領退陣を求める抗議行動が活発化している (c)AFP=時事

 朴槿恵(パク・クネ)大統領には保守層を中心に約30%程度の「コンクリート支持層」があるとされてきた。韓国では今でも、歴代大統領の人気調査をすれば朴正煕(パク・チョンヒ)大統領がトップで、その長女である朴槿恵大統領に対する保守層や高齢者層、特に慶尚道の支持が強固だ。

コンクリート支持層も崩壊

 しかし、韓国の世論調査会社「韓国ギャラップ」は10月7日、同月4~6日に実施した世論調査で、朴大統領への支持率が29%に下落したと発表した。これは過去最低だが、それまでも支持率が29%まで下落したことは4回あった。増税や年末調整で国民の不満が高まった2015年1月の第4週と2月の第1週、中東呼吸器症候群(MERS)の感染拡大阻止に失敗した2015年6月第3週、与党が敗北した国会議員選挙直後の今年4月第3週の4回だ。朴槿恵大統領はこれまでは、「コンクリート支持層」に支えられて、29%まで落ちると再び支持率を少しずつ上げて何とか政権維持を続けてきた。
 しかし、今回の崔順実(チェ・スンシル)ゲートではこの「コンクリート支持層」にも亀裂が生まれてしまった。韓国ギャラップは10月14日には支持率が26%になり、これまでの最低を記録したと発表した。10月21日には25%まで下落した。崔順実氏のタブレットの内容が報じられた後の10月28日には支持率が17%まで急落したと発表した。強力な支持基盤だった大邱・慶尚北道で前週の35%から19%に、60歳以上の高齢層でも52%から28%に支持率が急落した。
 野党の「共に民主党」は事件の真相究明のために特別検事制度の導入、青瓦台の人事刷新などを要求した。大統領選出馬に意欲を示す文在寅(ムン・ジェイン)元同党代表は、大統領が与党・セヌリ党を離党し、国会と協議して挙国中立内閣を組閣せよと要求した。同じく大統領選挙出馬を目指す野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)前代表は、朴大統領が崔順実氏を早くドイツから帰国させ、青瓦台の人事を一新し、内閣は総辞職せよと求めた。
 興味深いのは野党から朴槿恵大統領を「弾劾」すべきだという意見が出ていないことだ。これは2004年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領弾劾の学習効果のようにみえた。当時、国会は盧武鉉大統領を弾劾し、史上初の大統領弾劾訴追が成立したが、憲法裁判所での判断は3分の2に達せず弾劾は実現しなかった。だが、盧武鉉大統領の支持層が危機意識から結集し、その後の総選挙では当時の与党「ウリ党」が過半数を制する勝利を収めた。
野党には、韓国大統領選挙を1年2カ月後に控えて、民心の動向がまだ見えない中で、軽々に弾劾に持ち込んでも自分たちに有利に働くかどうか分からないという心理が働いているようにみえる。これに対して朴槿恵大統領は10月28日夜、青瓦台の首席秘書官10人全員に辞表を出すよう要求した。朴大統領は青瓦台の人事刷新で当面の危機を乗り越えたいとの意向とみられた。

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執筆者プロフィール
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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