経済の頭で考えたこと
経済の頭で考えたこと(88)

米トランプ新政権誕生:2017年が模索する新たな「暫定協定」

田中直毅
執筆者:田中直毅 2017年1月19日
エリア: 北米 ヨーロッパ
1月17日、200人の外交官らが出席する会合でスピーチするトランプ氏(米ワシントンDC)(C)EPA=時事

 2017年はModus Vivendi(暫定協定)の時代の幕開けとなるのではないか。
「暫定協定の時代」というのは聞きなれない言葉と思われるかもしれないが、移行期にあって恒久的な制度というべきものが浮上しない中で、とりあえず焦眉の問題に手当を続ける時、と理解したらどうだろう。

「G7誕生」の背景を見る「3つの視点」

 G7という枠組みが登場したのは、1973年の石油危機によって、先進国の経済運営が一挙に困難化したことを背景としている。
 第2次世界大戦後の国際経済システムは、IMF(国際通貨基金)とGATT(関税と貿易に関する一般協定)を主導した米国による開かれた経済運営が基調となった。保護貿易主義やブロック主義が過去のものとなり、安定した通貨システムのもと、関税の引き下げが相次いで実現する時代を迎えた。日本の高度成長が可能となったのは、こうした国際経済の秩序作りにおいて、米国が肝煎り役を担っていたからだ。日本人の米国に対する好感度が一貫して高いのは、こうした機縁を戦後の時代の区切りごとに確認してきたからである。
「トランプの登場」を迎えるに当って、G7という枠組みが生まれた背景を改めて振り返ることは、今の状況を理解する上で良き手掛かりとなる。以下、3つの視点で分析してみよう。
(1)米国国内における政治基盤の構造的な揺らぎ
 ベトナム戦争の激化は死傷者の増大のみならず、米国の世界関与の正統性をも疑問視させるものだった。とりわけ若者の批判は政治的意思システムの総体に及ぶようになった。そして西側共通の意思を確認する仕組みは存在していなかった。
(2)国際経済の枠組みの急変とニュー・アクターの登場
 ベトナム戦争では財政上の負担も高じた。米国内のインフレマインドが抑えられなくなる中、国際商品市況も長く続いた安定期が完全に過去のものになった。これにドル価値の動揺が加わったのが1971年以降である。この年の8月に、金ドル本位制が終焉を迎え、ドル建ての国際商品の建て値は上昇を余儀なくされた。OPEC(石油輸出国機構)が一挙に世界経済枠組みの最前線に躍り出ることになった。南北問題の噴出という形態をとって、西側先進国への対抗の図式を明らかにしたのである。
(3)中産階級モデルの崩壊と「不安定な状況」の現出
 ドル価値の下落は、米国内で物価上昇圧力に直結した。このため勤労者の実質所得の改善は阻まれることになる。「価値剥奪」という感覚が米国人に生まれたのはこの時からである。歴史の流れを裏切るこうした状況に対して、突出した運動が見受けられることになった。「フォート・ノックスに金塊はあるのか」という検証要求運動である。これは「国庫にあるとされる金が実際には消えているために、貨幣としてのドルの減価が生まれている。剥奪者を探し出せ」という社会運動だった。連邦政府は金塊保管の地であるケンタッキー州北部の軍保留地フォート・ノックスに、会計監査官を派遣せねばならなくなったのだ。「どこかで、誰かが自分たちの価値を毀損させようとしている。その犯人を見つけ出せ」という心理状況が米国の内部で広がりをみせたのだ。 

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執筆者プロフィール
田中直毅 国際公共政策研究センター理事長。1945年生れ。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始める。専門は国際政治・経済。2007年4月から現職。政府審議会委員を多数歴任。著書に『最後の十年 日本経済の構想』(日本経済新聞社)、『マネーが止まった』(講談社)などがある。
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