PBR1倍割れ対策の大本命、東証が「JPXプライム150指数」で挑む優良株選別

執筆者:磯山友幸 2023年5月11日
タグ: マネー 日本
エリア: アジア
TOPIXや日経平均株価を上回るパフォーマンスを示す新指数が誕生すれば金融商品の選択肢も増える   (C)時事
PBR1倍割れ銘柄をめぐる話題がマーケットニュースを賑わすが、東証が取り組むテコ入れ策の大本命は7月から算出が開始される「JPXプライム150指数」導入だ。22年4月から始まった「市場区分」変更の効果が激変緩和措置により限定的となる中で、新指数は本当に選び抜かれた「日本の優良企業パッケージ」として立ち上がれるか。

 果たして、日本の株式市場の魅力を高め、世界の資金を呼び込む起爆剤になるだろうか。

 日本取引所グループ(JPX)が7月3日から算出を開始すると発表した東京証券取引所の新しい株価指数によって、である。

 新指数は「JPXプライム150指数」。東証のプライム市場に上場する企業の中から、資本効率の高い企業150社を選び、指数化する。具体的にはまず時価総額上位500社を対象とし、ROE(自己資本利益率)から資本コストを引いた「エクイティスプレッド」の上位75社と、これらを除いた企業の中からPBR(株価純資産倍率)が1倍を超す時価総額上位75社の、合計150社を選ぶ。

 東証プライム市場には5月10日現在、1834社が上場しているが、ほぼ半分の会社がPBR1倍を割り込んでいる。日本を代表する大企業で時価総額が大きくても、PBRが1倍を割っている企業は新指数から外れることになる。JPXは新指数について「価値創造に着目」した銘柄選定になるとしている。

狙いは企業価値を上昇させること

 現在、東証の株価指数としては、「日経平均株価」や「東証株価指数(TOPIX)」「JPX日経インデックス400」などがある。長い歴史を持つ日経平均は投資家に広く親しまれているが、構成銘柄が225と少なく、時価総額の大きい銘柄の影響を受けやすい特徴を持つ。このことから、海外の機関投資家などは市場全体の実態をより正確に表すとして、TOPIXの方を重視すると言われている。

 JPX日経400は2014年1月から算出が始まったもので、ROEの高さや社外取締役の導入などグローバルな基準に合致する銘柄を集めた指数として設計された。当時の斉藤惇CEO(最高経営責任者)の肝煎で作られたもので、日本企業のコーポレート・ガバナンス改革や資本効率の改善を促す狙いがあった。

 株価指数は広く投資家に利用される。市場全体の値動きを把握するためばかりでなく、指数の先物取引などを通じて投資対象にもなる。3つの指数はいずれも先物が上場されているほか、指数に連動する投資信託などが投信会社によって設定され、投資家向けに販売されている。

 このため、上場企業にとっては、株価指数の構成銘柄に採用されるかどうかで、大きな影響を受ける。指数に採用されると、指数連動型の投資信託などの買いが入るほか、大手の投資家が投資対象として注目する。逆に指数から外れるとなると、インデックス投信から外されて売られることになる。JPX日経400が指数設計に当たって企業経営に関する要件を設定したのも、指数に採用されるために企業経営者が改革に動くことで、企業価値が上昇することを狙っていた。今回の「JPXプライム150」もそうした経営改革を促す効果を狙っているのは明らかだ。

TOPIXと別の値動きをする指数も必要

 実はJPXが2022年4月に行った「市場区分」の変更が、事前の予想以上に混迷を深めている。従来は「市場第1部」「市場第2部」「マザーズ」「JASDAQ(スタンダード・グロース)」という4つの区分だったものを、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つに集約した。欧州の取引所では10年以上前に行った見直しだったが、JPXはなかなか踏み切ることができなかった。

 というのも主眼は上場企業数が2100社を超え(区分変更時は2177社)「多すぎる」と言われ続けてきた「1部上場」の企業を絞り込み、「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場」と位置付ける「プライム市場」に変えることだったからだ。ところが、企業からすれば「1部上場」から陥落することに等しいため、根強い抵抗があった。当初は、1部から陥落すれば、TOPIXの指数から外れ、前述のように投資や機関投資家の投資対象から漏れてしまうのではないかと恐れたのだ。つまり株式が大きく売却されかねなかったからだ。

 結局、1部上場2177社のうち1839社がプライムに残り、スタンダードに指定されたのは338社に止まった。もっとも、1839社が基準を満たしていたわけではなく、経過措置としてプライム入りが認められた企業も少なくない。2022年12月末時点で269社が経過措置の対象で、2025年3月から順次、この特例が廃止されることになっている。実質4年間にわたって経過措置を認めざるを得なくなったのだ。

 一方で、TOPIXやJPX日経400の指数構成銘柄にも、プライム市場とスタンダード市場の上場銘柄が混在することになった。これも激変緩和が狙いだったが、投資家から見れば、プライム市場だけの銘柄で構成されている指数を売買したい、ということになる。そこで新たに作られることになったのが新指数というわけだ。

 今回の新指数にはJPXの本気度が滲む。というのも……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
磯山友幸(いそやまともゆき) 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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