煽りません! プロ直筆、一生モノの資産運用「いまやっていいこと、悪いこと」 (8)

PBR1倍割れ銘柄が多数 ならば、日本株は「買い」なのか?

執筆者:福田 猛 2023年3月27日
タグ: マネー 日本
エリア: アジア
(C)Tierney/stock.adobe.com
残念ながら、いつまでたっても「割安」のままの企業もある。一方で、高PBR企業が必ずしも「割高」だとは限らない。個人投資家が見極めるべきポイントは……

 企業の解散価値を表す「PBR1倍」。その水準を下回る上場企業の多さが話題を集めている。TOPIX全体でもPBRは約1.2倍でほぼ解散価値の水準だ。なぜこれほどまでに「割安」になっているのか。そして日本株は買いなのか。

東証が「低PBR対策」に動き出した

「今回の市場再編が上場会社の企業価値向上へ寄与することを目的としていることを踏まえれば、全上場会社の約半数がPBR1倍割れの状況にメスを入れない限り意味がなく、その改善に向けて、一歩踏み込んだことを行うことができるかどうかが重要」
「継続的にPBRが1倍を割れている(中略)会社に対しては、改善に向けた方針や具体的な取組などの開示を求めていくべき」

 これは、東京証券取引所の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」が発表した資料からの抜粋だ。東証のPBR1倍割れ企業に強く改善を求めていく姿勢が感じられる。このニュースは市場で大きな話題を呼んでいる。そもそもPBRとは何かを含めて、投資家目線でこの問題を考えてみたい。

 

 PBRとは、上記の計算式で計算される。今現在の株価が、その企業の1株あたりの純資産に対して何倍まで買われているかを表す。企業が市場で評価されている価値の合計である時価総額(株価×発行済株式数)と、その企業が保有している純資産(総資産から負債を引いた金額)を比較する指標だ。そして、普段は時価総額と純資産をそれぞれ1株あたりの数字に置き換えて、「株価÷1株あたりの純資産」の形でPBRは使われている。

 企業が解散した時、その企業に投資した人たちに分配されるのは、原理的には純資産だけだ。仮に時価総額が純資産と同額であれば(つまり時価総額を純資産で割った数字であるPBRがちょうど1ならば)、投資した人たちはその企業の解散価値と同額を手にしていることになる。

 ただ、投資家は企業の成長を期待してお金を投資しているわけだから、本来ならば時価総額は、企業が投資家から集めたお金の総額(純資産)よりも大きくなることが妥当だろう。逆に、時価総額が90億円の企業の純資産が100億円だったとすれば(PBRは0.9倍だ)、単純計算で90億円でその企業の株式を全部取得できるのに、その会社は100億円の資産を持っていることになる。普通に考えると、これはおかしな話である。

 今、問題になっているのは、東証の最上位であるはずのプライム市場で、なんと約半数の企業がPBR1倍割れになっていることだ。

鍵は「稼ぐ力」にある

【図1】ファイナンシャルスタンダード作成

 上記の図1はTOPIX(東証株価指数)とTOPIX銘柄全体のPBRだ。左軸、青色のチャートがPBRで、1倍を少し上回る水準で低迷が続いていることが分かる。直近でも、TOPIX全体のPBRは2023年2月末時点で1.23倍とやはり低迷している。

【図2】ファイナンシャルスタンダード作成

 一方で世界株式全体ではどうなのか。図2は、世界の株式全体の株価の値動きとPBRのチャートだ。PBRはほとんどの時期で2倍を超えており、直近の2023年2月では2.78倍と日本株との違いが一目瞭然だ。もし日本株全体のPBRも世界株の水準であるなら、株価は現在の2倍以上になっているはずだ。

 なぜ日本株はここまで「割安」に放置されているのか。鍵は「稼ぐ力」にある。

 稼ぐ力を理解するためにROEという指標を紹介したい。

 

 ROEは株主(自己)資本を効率的に使い、どれだけ利益を出したかを図る指標だ。ROEが高い企業は、稼ぐ力があるとされる。実はこのROE(稼ぐ力)とPBRには深い関係がある。

【図3】ファイナンシャルスタンダード作成
【図4】ファイナンシャルスタンダード作成

 図3を見てほしい。これは2023年3月17日時点での日本の銀行とアメリカの銀行のROE(稼ぐ力)とPBRを比較したものだ。アメリカの大手銀行JPモルガンの方が明らかにROEもPBRも高いことが分かる。そして日本の銀行は軒並みPBRが1倍を大きく下回っている。図4では、PBRとROEの関係性を示している。赤がJPモルガン、青が日本の銀行だ。ROEが高い企業ほどPBRも高くなっている。なぜこのような現象が生じるのか。

 ROEが高い企業を考えてみよう。自己資本に対して15%の利益を出す企業(ROE15%)があったとしよう。仮にその企業が利益に対して約33%の配当を出したとしたら、残りの利益は利益剰余金として自己資本に加算される。もしPBRが変わらないなら利益分株価が上昇することになる。このケースだと、15%の利益から33%を配当で支払っても1年で自己資本が10%増える。このように高ROEを持続できる企業は今のPBRが高くても、将来の自己資本は早いペースで増えるため、将来のPBRは低下して行くことになる。したがって、逆に言えば、稼ぐ力がある会社は現在のPBRが高くなるのだ。

 一方で稼ぐ力が低い企業はPBRも低くなりがちだ。ここで図1、2を再度見てほしい。現在のPBRだけを見ていると、世界株が割高で日本株が割安に見えると思う。なかでもPBR1倍割れの企業を買えば将来、より高いリターンを期待できるのではないかと考えがちだ。しかし、稼ぐ力を改善しない限り、いつまでたっても「割安」のままだ。そして、PBRが高くても継続して稼ぐ力を維持できる企業は、株価の上昇も期待できる。では個人投資家はどうすればよいのか。「割安」の日本株への投資にウェイトを置くべきなのだろうか?

 結論は、投資信託やETF(上場投資信託)を利用して「日本株も世界株もまとめて全部買う」ことをおすすめする。これから日本企業が稼ぐ力を身に付け大きな株価上昇に繋がるかもしれないし、そうならないかもしれない。しかし、日本を含めた世界の上場企業全体では毎年利益を出し続け、成長を続けている。この原則に則って、自身のコアとなる資産は「何かに張る」のではなく世界に分散して長期的に運用を続けることが重要だ。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
福田 猛 ファイナンシャルスタンダード株式会社代表取締役。同志社大学卒業後、大手証券会社を経て、2012年ファイナンシャルスタンダード設立。著書に『お金の不安から一生自由になれる 考えない投資生』(飛鳥新社)、『プロがこっそり教える資産運用のはじめかた』(毎日新聞出版)などがある。2020年、一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会理事就任。ファイナンシャルスタンダード公式サイト https://fstandard.co.jp/
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