煽りません! プロ直筆、一生モノの資産運用「いまやっていいこと、悪いこと」 (11)

「無意識」に始めた資産運用が「当たり前」になる社会――「資産運用大国・アメリカ」の強さの源泉

執筆者:福田猛 2023年11月14日
タグ: マネー
エリア: 北米

 

(C)Adrian_ilie825 / stock.adobe.com
アメリカの個人金融資産は110兆ドル(約1京5000兆円)を優に超え、世界一を誇る。「儲かるか」ではなく、いかに人生に「当たり前」な安心をもたらすかを追求するファイナンシャルプランニングがこの資産運用大国を支えていることは、もっと強調されていい。

 2023年9月下旬から10月上旬にかけて米国視察に行った。米国でのファイナンシャルアドバイザー業界や米国人の資産運用について学ぶためだ。米国人の資産運用について日本人との違いなど含めて当欄でご紹介したい。それらを踏まえ日本人はどうすれば良いのかも私の考えをお伝えしたい。

知識がない人も401kで「無意識に」運用

 アメリカは資産運用大国と言われるが、多くのアメリカ人は当然のように資産運用を行っている。これは良く言われている話だが、米国人は金融資産全体に占める現預金比率が13%ほどしかない。一方、日本人は約55%もある。日本では「資産運用をした方が良いのかどうか」を悩む人がいるが、米国人は「運用することは当たり前」で「どう運用するか」を考えている。この違いにはいくつかの理由が考えられる。

① インフレ

 昨年、米国では歴史的なインフレ(物価の上昇)があった。昨年に限らず継続的にインフレが続いているため、現預金で資産を保有すると実質価値が目減りしてしまうリスクを米国人は感じている。「運用しないリスク」が顕在化しており、現預金は極力持たず運用している。一方、日本人は長らくデフレが続いたため、現預金で保有することに慣れている。日本の株式市場が長期的に低迷したこともより現預金へ偏ることを後押しした。

 しかし、日本でも肌感ではっきり分かるくらい物価が上昇している。この10年で価格が下がったのは携帯電話、スマートフォンの通信料くらいではないだろうか。いよいよ日本でも「運用しないリスク」が顕在化してきている。米国のファイナンシャルアドバイザーに聞くと、顧客はインフレによる資産価値の低下を気にしているという。

 また、日本では顧客からドル資産を持つことについて為替リスク等の質問を受けることがあるが、結論は「ドルを持たないリスク」を考えた方が良いということになる。アメリカ視察でさらに実感したが、インフレに加え円安なのでとにかく円ベースで見ると物価が高かった。比較的安いといわれるファストフードの代表格であるマクドナルドを覗いてみると、ビッグマックセットがロサンゼルスのサンタモニカでは日本円で約1600円だった。日本だと地域によって異なるが概ね750円前後だ。レストランも軒並みチップ含めて高かった。感覚的には日本の2~2.5倍のイメージだ。為替が1ドル100円で考えると物価は日本の1.5倍くらいだが、円安(1ドル150円)を加味すると2倍を超える。

 これだけ海外で物が高いと輸入物価も上昇し、日本でもインフレが続くだろうなと実感した。収益を生み出すドル建資産(株式や債券など)を保有することは日本人にとって非常に重要になるだろう。

② 20代からずっと「無意識に」運用している

 米国人が運用することが当たり前と考える理由はインフレだけではない。米国人は社会人になると、多くの企業が導入している401k(確定拠出年金)に(自分が勤める会社にその制度があれば)自動的に加入する。給与の一部が拠出金として毎月投資されることになる。

 この際、どの金融商品で運用するかを選択するが、デフォルト(初期設定)が米国株など株式中心で運用する投資信託になっている。知識があまりない人は初期設定をわざわざ変更しない。すると毎月「自動的に」「無意識に」株式資産へ積立投資が行われることになる。20代から数十年続けると複利効果もあり、数億円に資産が増えている人も少なくない。

「無意識に」投資を続けてきたこれらの人たちにとって、はもはや運用することはいつの間にか「当たり前」になっている。そしてある程度資産が増えてきたら、様々なファイナンシャルプランを考えるため、ファイナンシャルアドバイザーに相談する。その後もファイナンシャルプランに基づいて継続的に資産運用を続け、さらに資産を増やしていくのだ。

 ここで重要なことは、アメリカ人は決して子供の頃から投資を学び、理解したうえで主体的に長期運用を行って資産を増やしたのではないということだ。先程ご紹介した401kによる運用も、会社に入ったら401kという制度があって、初期設定とおり実行しただけなのだ。

 一方日本だと、401k(企業型確定拠出年金)がある会社でも初期設定は自身で行わないといけない。「日本株」「海外株」「日本債券」「元本確保商品」など一覧の中から自身で選ぶ。知識がない場合は「元本確保型」を中心に選択する人が大半だ。実際、残高でも日本の401kは大半が「元本確保型」が選択されているという話もよく聞く。このほかNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などの税優遇制度もあるが、「日本では勝手にやってくれる」訳ではなく、全て主体的に学び、主体的に実行しないといけない。逆にいうと制度自体は日本でも充実してきたので、主体的になれた人は良い方向に向くとも言える。

「安心して人生を送る」ためのお金を作る

 米国のファイナンシャルアドバイザーに話を聞いていて印象的だったのは、どのアドバイザーもファイナンシャルプランニングを重要視していることだ。顧客の収支状況や今後の人生でしたいこと、その他様々なことをヒアリングしてインフレや税金対策も含めたプランニングを行い、顧客と伴走する。資産運用自体は複雑なものよりもシンプルな分散投資が大半で、株式資産への配分を高め長期的なリターンを目指す運用が中心だ。何か特別な運用手法や投資商品の提案を重視するのではなく、運用自体は実にシンプルだ。アドバイザーと顧客との会話は、普段は運用よりもファイナンシャルプランニングの話が中心となるそうだ。

 あるアドバイザーはこんな話をしてくれた。

「顧客は資産運用をしたいのではなく、幸せになりたいし、痛みは避けたいし、人を大切にしたいのです。そのためにはお金は非常に重要で、安心できるようファイナンシャルプランを立てて長期的な運用をサポートするのです」。

 どの投資が「一番儲かるか」などをアドバイスするのではなく、顧客が安心して人生を送れるサポートをすることに価値を見出している。

 アメリカ人がより富を得ていく環境を実感した。

 私は日本でファイナンシャルアドバイザー会社としてそういったことを実現していきたいと日々奮闘しているが、日本人も主体的に取り組めば「米国流」の資産運用を実現できるので、多くの人にチャレンジしてほしい。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
福田猛(ふくだたけし) ファイナンシャルスタンダード株式会社代表取締役。同志社大学卒業後、大手証券会社を経て、2012年ファイナンシャルスタンダード設立。著書に『この世でいちばん臆病な投資生活』(サンマーク出版)、『お金の不安から一生自由になれる 考えない投資生』(飛鳥新社)、『プロがこっそり教える資産運用のはじめかた』(毎日新聞出版)などがある。2020年、一般社団法人ファイナンシャル・アドバイザー協会理事就任。ファイナンシャルスタンダード公式サイト https://fstandard.co.jp/
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