エジプト民主化の混乱要因は「司法の独立」

執筆者:池内恵 2012年6月14日
タグ: 大統領選

  エジプトの大統領選挙の決選投票が16・17日に行われる。昨年のムバーラク政権打倒の際に表出された体制変革の夢をイスラーム主義組織ムスリム同胞団の公認候補に託すことに多くの国民が納得できるのか、あるいは専制的統治への不安を押し殺して軍人出身のテクノクラートに「安定」の望みを託すか、国民の選択に注目が集まる。

  ところが投票直前に「邪魔」が入る可能性が出てきた。最高憲法裁判所が14日に、二つの重要な法についての違憲審査の結論を出すというのだ。一つは議会選挙に関する法をめぐるもので、昨年3月に発布された「憲法宣言」では、議会の議席の3分の2を諸政党の比例区に、残り3分の1は小選挙区に配分し、非政党の独立候補がこれを争うと定めていた。その後7月から9月にかけて複数回発出され改訂された議会選挙法では、小選挙区にも政党推薦候補が立候補できるものとされた。この議会選挙法が、軍が発出し、暫定憲法として通用している「憲法宣言」に反するという訴えに、憲法裁判所が判定を下す。ここで「違憲」と判定されると、昨年11月から今年1月にかけての議会選挙投票によって選出された現在の議会が解散され、新たな選挙法をまた軍が発出し、それに基づいて新たに選挙をやり直すということになりかねない。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top