行き先のない旅 (68)

ピカソが引っ張りこまれた「天才たちの強化合宿」

執筆者:大野ゆり子 2009年1月号

 あのピカソが衣装、舞台美術を手がけたバレエが、オリジナル通りにパリで再演されたのを見る機会があった。演目はエリック・サティ作曲、ジャン・コクトー台本の「パラード」。見世物小屋でサーカスの馬や手品師などが次々と芸を披露するという、たわいのない内容だが、ピカソの色彩と造形が「飛び出す絵本」のように際立っていた。初演当時は第一次大戦中だったために「非国民的だ」と大スキャンダルになった作品だ。舞台とは何の縁もなく、アトリエの中でひとり孤独に制作に打ち込む画家を、「舞台」という集団生活に無理やり引っ張りこんだのはコクトーだった。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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