フォーサイト「2020年の注目点、気になること」【地域編】

昨年の問題を持ち越しつつ、今年も大きく世界が動きそうです 
 

 フォーサイト編集部です。新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 本年も昨年同様、新年を迎えるに当たり、執筆者の方々に「2020年の注目点、気になること」をお聞きし、それぞれ【地域編】と【テーマ編】にまとめてみました。こちらは【地域編】です。どうぞお楽しみください(各地域の執筆者は50音順になっています。タイトルをクリックすると、それぞれの執筆者の記事一覧ページにジャンプします)。

 

〈アジア〉

【インド:緒方麻也】4.5%ショックからの巻き返しは?

 2019年7-9月期、インドの実質GDP(国内総生産)成長率は4.5%とついに5%を割り込み、6年半ぶりの低成長となった。モディ政権にとって2020年は、経済改革を再び加速させ、インドを再び7~8%の高度成長軌道に復帰させられるかどうかの正念場となる。

 中でも最大の注目は2月上旬に国会で発表される2020年度予算案だ。インドの予算案は単にカネの配分を決めるだけでなく、新たな政策やプロジェクトを内外に発表する重要イベントだからだ。

 インドの経済成長にとってブレーキとなっているのはもちろん「農村の困窮」などによる消費低迷と不良債権処理に伴う貸し渋りなど「金融セクターの混乱」だ。これらの問題に対しどこまで実効性のある政策が打ち出せるか。世界が注視している。

 

【インドネシア:川村晃一】ジョコ・ウィドド政権「最終任期」の経済回復

 2019年10月に2期目のジョコ・ウィドド政権が発足した。最終任期となるジョコ大統領に残された時間はそれほど多くはない。議会における安定した支持基盤を背景に、スタートダッシュを切れるかが注目である。とくに、減速傾向がはっきりしている経済を回復させられるかが最大の課題だ。規制改革を実行し、投資を誘致することに全力を注がなければならない。経済が低迷しては、首都移転どころではなくなる。また、インドネシアの民主政治に長期的に影響を与える要因として気になっているのは、憲法改正の動きである。最後の憲法改正は2002年だが、それ以降では初めて改正に向けた動きが本格化している。大統領の選出方法や任期が議論の的になっており、改正が実現されれば政治のあり方を大きく変えることになる。

 

【台湾・香港:野嶋剛】台湾総統・立法委員の同日選

 台湾の総統・立法委員(国会議員)の同日選が新年早々の1月11日に行われる。民進党の蔡英文総統の再選が有力視されるが、かつて「韓流ブーム」を巻き起こした国民党の韓国瑜・高雄市長がどこまで追い上げられるか。国民党が総統選でも敗北し、立法委員選でも過半数を取れなければ、分裂含みで党内対立が激化する予感も漂う。敵対視する民進党の勝利で再びノーをつきつけられた形になる中国・習近平指導部が、どのような対策をとってくるか。米中対立も絡みながら、台湾海峡は荒れ気味になる可能性もある。

 この台湾選挙に対して、大きな影響を及ぼした香港情勢は、11月の区議会選挙での民主派圧勝を受けて、デモもおさまる気配はなく、なお混迷の度を強めている。2020年秋には立法会(議会)の選挙も予定される。香港政府とその背後にいる中国政府は、香港情勢を安定化させ、習国家主席が掲げる「中国の夢」に直結する「一国二制度」への信頼を勝ち取ることができるか、正念場を迎える。台湾、香港両問題とも、米中対立と絡みながらの展開を見せていくだろう。

 

【東南アジア:樋泉克夫】岐路に立つASEANと難問山積の加盟各国

 2020年の東南アジアは、前年に引き続き「一帯一路」を柱にした中国の“熱帯への進軍”を軸に動くはずだ。米中冷戦とは言うものの、アメリカは1年間を通じて大統領選挙に注力せざるを得ないだけに、この地域への関心は低下するに違いない。必然的に起こるであろう中国の影響力増大によって、地域協力を掲げる国際機構としてのASEAN(東南アジア諸国連合)の存在意義が問われる可能性も考えられる。

 ASEAN各国政府は対外的には中国政府との関係構築に腐心する一方、国内的には経済発展に伴って必然的に生まれる社会の格差と多様化、教育、環境、さらに宗教の問題に取り組まざるを得なくなる。これら社会的不公正と一括して捉えることができる問題の処理を誤れば社会の分裂・多極化を招き兼ねないだけに、極めて難しい国政運営が求められる。それだけに香港の反政府運動のASEAN各国の民主派組織への影響にも注目しておきたい。

 一部の国で見られるようになった高齢化と労働人口減少という問題も、要注意と言ったところだろう。

 宗教問題に関し特記するなら、イスラム過激派テロ組織の浸透を注視しておきたい。そこで気になるのが、2019年後半にテロ活動を活発させている南タイにおけるBRN(パタニ・マレー民族革命戦線)を軸とする分離独立主義集団の動向である。

 

【朝鮮半島:平井久志】緊迫する米朝関係と、改善の兆しなき日韓関係

 まず、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が元日に発表する「新年の辞」で、米朝対立の中でどこまで危機のレベルを上げ、どういう「新しい道」を示すかが注目点。北朝鮮は一気に核実験やICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験の再開に踏み切るのではなく、各種の挑発で段階的に対米圧力を高めるのでは。

 米韓側が、例年春に実施している米韓合同軍事演習を実施するのかどうか。さらに、北朝鮮が、ドナルド・トランプ大統領の最大の関心事である大統領選を利用してどういう「ディール」を仕掛けるか。北朝鮮の内政では2020年は朝鮮労働党創建75周年の区切りの年であり、第7回党大会で決定した「国家経済発展5カ年戦略」の最終年である。経済制裁下で次の経済戦略を立てねばならないが、それも米朝関係がどうなるかに掛かっている。

 戦後最悪といわれる日韓関係は、中国の成都で実現した1年3カ月ぶりの日韓首脳会談でやや改善に動き始めたが、本質的な改善は容易ではない。輸出規制強化や「ホワイト国復帰」の経済問題と、GSOMIAなど外交安保問題を解決しても、元徴用工問題の解決は容易ではない。韓国では4月に総選挙があり、文在寅(ムン・ジェイン)政権は支持勢力との関係で、その前の譲歩は難しい。保守色を強める安倍晋三政権と、進歩色を強める文在寅政権という「ミスマッチ」の期間中に、日韓関係が大きく改善される可能性は低く、本格的な関係改善は両政権の退陣後に期待するしかないのが現実だ。

 

〈中東〉

【トルコ:間寧】トルコ:「AKP卒業」新党

 レジェップ・タイップ・エルドアン大統領を党首とする与党「公正発展党(AKP)」から袂を分かった党内有力者たちが、2つの新党を結成しつつある。エルドアンが野党勢力に対してのみならず与党内でも異なる意見を認めない態度を強めたことへの反発である。

 アフメト・ダウトール元首相らが2019年12月に結成した新党、アリ・ババジャン元副首相とアブドゥラー・ギュル前大統領らが2020年1月に立ち上げる新党は、いずれも政治的自由と市場経済を掲げている。

 これら2つの「AKP卒業」新党がAKP票を侵食することは間違いない。しかし2019年統一地方選挙で善戦した野党連合はどうなるのか?「AKP卒業」新党は他の右派系野党と組んで第3極を形成するのか?エルドアンはそこから漁夫の利を得るのか?

 

〈北米〉

【アメリカ:足立正彦】大統領選・連邦議会選でさらなる「分断政治」か

 11月3日に投票が行われる大統領選挙と連邦議会選挙。ドナルド・トランプ大統領が再選を果たして2期8年政権を担うことになった場合、国際社会がトランプ大統領にさらに翻弄されることは必至。

 他方、民主党がホワイトハウスを奪還できたとしても、左派から「内向き志向の米国」へと力学がかかる可能性もあり、我が国をはじめとする同盟国にトランプ政権とは別のかたちで影響が及ぶリスクが存在する。

 注視しなければならないのは、連邦議会選挙。上院の多数党の立場を共和党が維持し、下院の多数党の立場を民主党が維持した場合、トランプ再選、民主党の政権奪還のいずれの場合も「分断(ねじれ)政治」となり、米国が膠着状態に陥る事態が懸念される。

 

【アメリカ:渡部恒雄】大統領選で米国の求心力低下

 2019年12月18日に米下院はドナルド・トランプ大統領への弾劾訴追を可決し、この弾劾について米国の議会と世論の賛否は真っ二つに割れている。

 1月からの上院の弾劾裁判、2月からの大統領予備選を経て11月の大統領選挙まで、アメリカの目は国内に向き、世論の分裂は進行する。そうなると世界における米国の求心力は低下するし、現在の国際秩序を破壊したい勢力にとっては、最高の機会となる。

 大統領選挙の年はオリンピックの年でもある。ホストは米二極化の申し子であるトランプ大統領の親友で、北朝鮮が名指しで批判する安倍晋三首相だ。つまり東京五輪は、サイバーを含む様々なテロや妨害行為の恰好の対象となる。どう守るのか真剣に考えたい。

 

〈中南米〉

【中南米:遅野井茂雄】民主政の正念場

 「資源ブーム」の終焉した2014年以降、中南米諸国は平均で1人当たりのGDPでマイナス成長の不況に見舞われ、2010年代は新たな「失われた10年」となる可能性が高まった。その中で、民主政、政府・政治家に対する不満が圧力釜のように充満、アルゼンチンでは左派政権が政権を奪回、各国で政治社会不安の連鎖を引き起こしている。

 その流れは、経済成長で堅調さを誇ってきた「太平洋同盟」のメキシコ、コロンビア、ペルー、チリにも及んだ。

 2018年に左派政権に転換したメキシコは、ベネズエラ問題でリマグループを離脱、ポピュリズム政策の下でゼロ成長に直面。ペルーでは汚職問題の追及を巡り大統領独自の憲法解釈で議会を解散し、経済も下方修正を迫られた。10月、自由市場の「優等生」チリで大規模な抗議活動が発生、新憲法制定に向けた打開の動きにもかかわらず、収拾の目途が立たず急速な経済減速に直面。11月にはコロンビアに波及し、12月までにゼネストを含む3度にわたる大規模な反政府抗議が続いている。

 半世紀前に世界を覆った学生運動の波は、中南米ではキューバ革命に刺激され、ゲリラ活動と相まって社会不安を煽り、雪崩式に軍政による暴力的な安定に道を譲った。今日、拡大した中間層、SNSの影響、ミレニアム世代の登場で発生した新たな危機は、旧来の上意下達的な政党制では打開できない。ベネズエラのような左派政権が独裁化して破綻した道、秩序や家族を重視する台頭著しい福音派と軍が結び付く道もあり得ないではないが、その代償も大きい。植民地時代からの遺制である不平等構造是正への抗議に対応し、教育、保健、年金、治安などその結果に責任を持つ民主的統治のあり様が試される。

 

【中南米:渡邉優】キューバの行方 

 マルクス・レーニン主義経済を墨守する最後の共産主義国キューバ。そのキューバが、未曾有の経済危機に直面し、今後の見通しが不透明になってきた。経済体制そのものの問題、ベネズエラの凋落による石油供給の激減、米国による制裁強化(しかも大統領選挙を控える米国が制裁を緩める気配は皆無)など、問題山積で産業も生活も著しい苦境に陥っている。

 2020年はどうなるか。(1)不満のマグマが爆発寸前のまま現体制が続くのか。(2)国民の不満が爆発して混乱に陥るか、それとも自由化・開放に舵が切られるのか(だとすれば一大ニュースである)。(3)あるいはどこかの国が丸抱え覚悟で救済するのか。それは中国以外に考えられず、軍事面も含む莫大な見返りが求められるに違いないが、米州の安定を損なう結果となりかねない。2020年のキューバは目が離せない。

 

〈ヨーロッパ〉

【ヨーロッパ:大野ゆり子】欧州で感じる「分裂」

 欧州統合の熱狂は21世紀に入って20年で消え失せてしまい、ブレグジット騒動を皮切りに、2020年も欧州は「分断」に向かいそうだ。私の住むスペイン、ベルギー両国とも、言語、文化の異なる政党の間で連立交渉が難航し、政治空白が続いている。欧州一元化への動きが、地域主義をより強めていく結果となる例と言えるかもしれない。

 欧州で感じるもう1つの「分断」は、世代間の分断だ。1月3日で17歳になる環境活動家グレタ・トゥーンベリと、彼女に賛同する若者が社会に投げかけているのは、地球温暖化の問題にとどまらない。高い失業率の中で、将来に希望を見出せず、地球環境を破壊して既存の社会の枠組みから恩恵を受けている「大人たち」に対する、若者たちの強い憤り。「よくもこんなことを」という彼女の言葉が表すように、変革を恐れる大人たちに注がれる視線は厳しい。

 

【イギリス:国末憲人】「合意なき離脱」への道

 2020年の欧州に、流れを大きく変えるような選挙や国際会議は見当たらない。前年までの課題がそのまま持ち越され、しかも場合によってはさらにこじれる1年になるだろう。

 その最たるものは、英国の欧州連合(EU)離脱問題である。2019年暮れの英総選挙でジョンソン政権与党の「保守党」が勝利し、後戻りできない離脱への道を政権はひた走る。ただ、期限の1月末に予定通り離脱を果たしても「移行期間」に入るだけで状況はかわらず、すべては英EU関係の今後を定める交渉にかかっている。その行方次第では、「合意なき離脱」への道が再び浮上する恐れも拭えない。この騒ぎに早く決着をつけたい各国首脳にとって、頭の痛い問題だ。

 「移行期間」の期限は年内。英EU交渉が1年で片付くとは到底思えず、延長は不可避だが、その決定は6月末までにしなければならない。その際に論争が再燃するのは必至である。

 EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン新指導部の動向、ドイツのメルケル後の行方、難民問題、テロ対策などは、引き続き議論の的となるだろう。各国の政治や社会の中に、民族や宗教などのアイデンティティーに立脚した勢力が伸張しているのも、気にかかる。これらを取り込んで利用しようとするロシアの介入からも、目が離せない。

 

【ドイツ:熊谷徹】「メルケル後」を睨んだ選挙戦

 ドイツでは、「メルケル後」を視野に入れた、2021年の連邦議会選挙へ向けた選挙戦がスタートする。特に現在、ドイツでの政党支持率調査で第2党である緑の党と、右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の動きから目が離せない。また同国では2020年以降、脱石炭・モビリティの電化など経済の非炭素化の動きが本格化する。日本と同じものづくり大国ドイツが、再生可能エネルギーに大きく依存する経済に移行できるかどうか。

 欧州政局では、ドイツに代わり欧州の盟主の座をめざすエマニュエル・マクロン仏大統領の動きに注目している。フランスがロシアに急接近することで、欧州の米国離れが本格化し、軍事同盟NATO(北大西洋条約機構)の基盤が強く揺さぶられる可能性もある。

 

【ヨーロッパ:軍司泰史】EU内で地殻変動

 昨年12月の英総選挙で与党「保守党」が勝利し、英国は今年1月末には欧州連合(EU)を離脱する。英国はEUにおいてユーロにもシェンゲン協定にも加わらず、終始「外様」の位置にいたが、グローバルな視野と影響力を持った国であり、抜けることでEU内の力関係は地殻変動を起こすのではないか。特にEUを率いる「両輪」とされる独仏関係の変化が注目される。

 フランスは、2011年のリビア介入など安全保障問題では、しばしば同じ核保有国であり国連安保理常任理事国である英国を頼みにした。ドイツは、南欧諸国がEU予算の拡大などの難題を提起したとき、やはり主要拠出国である英国の反対論を期待できた。英国はいわば「外様」の大国として、EU内でバランサーの役割を果たしてきたと言える。

 折しもドイツは、2010年代に謳歌した経済的な「一人勝ち」の終わりが視野に入り始めた。政治的には約15年続いたアンゲラ・メルケル首相の交代期に入る。ドイツが内向きになる一方で、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はユーロ圏共通予算や欧州独自防衛構想などEU改革に情熱を燃やしている。

 独仏のこの「温度差」は、今後あつれきを生みそうな気配だ。EU加盟国時代もEUと距離を置き、よく言えば客観的、悪く言えば冷笑的、冷淡だった英国が、意外とEU内の力関係で存在感を放っていたことに気付く年になるかもしれない。

 

【ヨーロッパ:渡邊啓貴】年後半に落ち着く

 2020年欧州第一の関心は、ブレグジットだ。1月早々に英国下院議会で同月末の離脱が決定し、2月から年末にかけての離脱交渉が始まる。

 2019年10月に英国とEUで離脱に合意したとはいえ、北アイルランドの処遇を含むさまざまな点についての真のコンセンサスは国内でもできていない。またEUとの関係はカナダ型の自由貿易協定によって進められるとされているが、事態は予断を許さない。

 交渉の決着は2020年末までにはつかないというのが大方の予想だが、多少の混乱はあるにしても、大筋での合意を元に、詳細は一部交渉延期のような形で進められよう。離脱というが、「部分離脱」というのが実際のところではないか。英国、EUともに混乱は最小限にとどめようという政治力学が働くからだ。

 政治日程として留意しておくべきは、ドイツの地方選挙だ。アンゲラ・メルケル首相の支持低下、その後継者と見られるアンネグレート・クランプ=カレンバウアーCDU(キリスト教民主同盟)党首の指導力がいまひとつ不確かな中で、保守党の苦戦と政局の不安定も予想される。ドイツ経済の復調も鍵となろう。

 そうした中で、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は欧州統合のイニシアティブをとろうとするだろう。独仏関係は慎重な舵取りで推移するだろうが、部分的には齟齬をきたす局面も出てくる。国内的には社会保障・年金改革の論争が引き続き行われるはずだ。マクロン人気は低調になると見られるが、後半には2022年大統領選挙を目指した蠕動(ぜんどう)が見られるだろう。保守派の巻き返しなるか、が焦点だ。

 世界中で欧州の地位と統合が失墜することにはならないが、事態が落ち着くのは後半以後ではないか。ブレグジットのプロセスも予断を許さない(筆者は楽観的だが)。

 そうした中で、イタリアや中欧諸国のポピュリズム(排外主義)の台頭の可能性もある。難民問題が落着しているわけではないからだ。ただ、それが欧州政治の根底を覆すようなことにはならない。ブレグジットプロセスが進んで行く中で落ち着いていくようになると思われるからだ。

 

【ロシア:小泉悠】ウクライナ紛争の和平 

 2014年から続いてきたウクライナ紛争を収束させようという動きがある。ウクライナ東部に「特別の地位」を導入することをウクライナのゼレンスキー新政権が受け入れた。フランスもロシアとの和解に前向きで、一連の危機に新たな展開があるかもしれない。ただ、ロシアのウクライナ介入を結果的に黙認するのか、ウクライナ国民は果たして納得するのかといった疑問は残る。

 米露間では中距離核戦力(INF)全廃条約が2019年に失効し、戦略核を規制する新START(新戦略兵器削減条約)も2021年には期限切れを迎える。2020年には核軍縮の今後を巡って大きな展開がありそうだ。

 日露の平和条約と北方領土問題を巡っては残念ながら進展が見込めず、せめて日本として筋の通らない妥協だけはしないよう願いたい。

 

【ロシア:古葉祥太】「勢力圏」奪還の動き

 欧州への統合を掲げる旧ソ連3カ国(ウクライナ、ジョージア、モルドバ)を勢力圏に取り戻そうとするロシアのプーチン政権の策略に拍車が掛かりそうだ。ロシアはウクライナに対して親ロ派武装勢力が実効支配する同国東部に自治権を与えることを要求しており、同勢力を通じてウクライナ全体への影響力を回復するシナリオを描く。ドイツと共に交渉を仲介するフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、米政権と軋轢が深まるなかでロシアに接近しており、昨年12月にパリで開いた4者会談ではウクライナ側に譲歩を働きかけたようだ。

 トランプ大統領が軍事支援の見返りに米大統領選のライバルである民主党のジョー・バイデン前副大統領の弱みを調査するようウクライナに圧力を加えた疑惑の裏でも、ロシア発の偽情報が作用したと見られており、欧州の情報機関によれば、ロシアは冒頭の3カ国への工作活動にも注力している。モルドバでは親ロ派が政権を奪取し、ジョージアでは民主化を逆行させるような動きが目立つ。2020年、両国ではそれぞれ大統領選と議会選が予定されている。

 

【ロシア:名越健郎】五輪排除が影を落とす日露関係

 ドーピング不正でロシア選手団が4年間五輪から排除されることで、2020年東京五輪開会式へのウラジーミル・プーチン露大統領出席も吹き飛びました。ロシアが主催した2014 年ソチ冬季五輪開会式に主要国首脳で出席したのは、安倍晋三首相と習近平中国国家主席だけでしたが、ロシアは2022年北京冬季五輪からも排除されます。東京五輪はともかく、北京五輪に行けないことは、プーチン大統領を「親友」と呼んだ習主席の手前、バツが悪いでしょう。

 この結果、日露首脳会談は2020年秋までなさそうで、日露平和条約交渉も吹き飛びました。中露善隣友好協力条約が2021年に一区切りとなることから、同盟条約に格上げとの見方もありますが、五輪排除が影を落とすかもしれません。ロシアはリオ五輪や平昌五輪から締め出された腹いせとばかり、両大会にサイバー攻撃を仕掛けており、東京五輪への報復攻撃が気がかりです。

 

【ジョージア:前田弘毅】総選挙の行方~更なる「革命」は起こるか 

 2020年のジョージア、最大のポイントは秋に予定されている総選挙である。

 2003年秋の総選挙では、選挙結果を不服とする野党ミヘイル・サアカシュヴィリ支持派が「バラ革命」を引き起こし、翌年サアカシュヴィリ政権が発足した。2012年の総選挙では、投票日間近のスキャンダル報道により与党敗北、サアカシュヴィリ大統領は翌年国外に逃れた。8年周期で革命的な政変が起こっている。

 2012年から政権を担う大富豪ビジナ・イヴァニシュヴィリ率いる「ジョージアの夢」政権であるが、国民の間で不満が高まっている。正教会の動向にも注意を払う必要がある。

 ジョージアの総選挙が近年、最大の支援国であるアメリカの大統領選挙と同じ年に行われてきたことも見逃せない。2008年夏の南オセチア戦争はジョージ・ブッシュ政権の最末期に起こった。2012年の政変も介入を好まなかったバラク・オバマ政権の姿勢が影響した可能性がある。ジョージアを積極的に支持してきたジョン・マケイン上院議員が死去し、旧来の共和党と異なる――特にロシアに対する態度において――トランプ政権の行方とともに、国際政治の観点からも注目だ。

 

〈アフリカ〉

【アフリカ:白戸圭一】アビー首相下で初のエチオピア総選挙

 GDP成長率7%台の安定した経済成長を続けているエチオピアでは2020年5月、2018年4月に41歳の若さで首相に就任し、2019年のノーベル平和賞を受賞したアビー・アハメド首相の下で初めての総選挙が実施される予定だ。宿敵だったエリトリアとの電撃的な国交回復や民主化の推進により国際社会で高い評価を受けているアビー氏だが、急激な変化に戸惑う既得権層の反発や、支持基盤であるオロモ人コミュニティの内部分裂などにより、国内各地で反首相の動きがみられることが気になる。

 ロイター通信によると、2019年10月下旬には、南西部のオロミア州でアビー首相の退陣を求めるデモ隊が治安部隊と衝突し、少なくとも67人が死亡した。デモ隊はアビー氏の出身民族であるオロモ人の組織で、オロモ社会には国内融和を進める首相を「裏切り者」と非難する声がある。これ以外にも民族間の衝突などが各地で発生しており、首相は困難な舵取りを迫られている。

 人口が1億人を超えたエチオピアは、アフリカでは稀な縫製や繊維など軽工業の振興に成功しつつあり、非資源輸出国でも経済発展できる実例として注目を浴びている。政治情勢の安定は経済発展の基礎であるだけに、首相が総選挙で安定した政権基盤を手に入れることができるかが注目される。

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