
2022年12月に閣議決定された、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画(以下、三つの文書を戦略3文書と呼ぶ)では、2018年の防衛大綱に引き続き、宇宙、サイバー、電磁波といった新領域における安全保障の問題が論じられている。
本稿では、その中でも宇宙分野における議論を中心に、今後の安全保障戦略がどのように変化していくのかを見てみたい。なお、本稿は筆者個人のものであり、所属するいかなる組織の公式見解でもないことを断っておく。
初めて宇宙での攻撃的能力に言及した「2018年防衛大綱」
戦略3文書の議論に入る前に、政府の防衛戦略の中で初めて防衛における宇宙の重要性が明記された2018年の防衛大綱から議論を始めておく必要があるだろう。
この大綱では、初めて防衛目的の宇宙活動が明確に位置づけられた点では画期的であったが、一方で人工衛星を活用した情報収集、通信、測位の強化とSSA(Space Situational Awareness=宇宙状況監視)の能力の強化、人工衛星の機能保証(衛星が攻撃を受けた場合でも代替手段によってその機能を継続すること)が論じられているに過ぎず、これまでの防衛省の活動を超えるものではなかった。他方で、測位に関しては内閣府が進める準天頂衛星、情報収集に関しては内閣官房が進める情報収集衛星が主たる宇宙システムであり、防衛省が所掌を持たない。その意味で、2018年の防衛大綱では既存のシステムをなぞったに過ぎず、新たな活動が提起されたわけではなかった。
ただ、その中でも興味深いのは「相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力を含め、平時から有事までのあらゆる段階において宇宙利用の優位を確保するための能力の強化」が含まれた点である。これは、他国が指揮統制や情報通信を衛星で行う際に、それを妨害する能力、つまり……

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