「宇宙の安全保障」は戦略3文書でどう変わるか

執筆者:鈴木一人 2023年2月28日
タグ: 日本 自衛隊 宇宙
エリア: アジア
宇宙空間での妨害行為や破壊行為の誘因は高まっている[航空自衛隊の宇宙作戦隊が公開した、衛星状況監視訓練を想定したデモンストレーション=2021年11月30日、東京都府中市の空自府中基地](C)時事
「反撃能力」の獲得には標的を特定し監視する必要が生じてくる。極超音速滑空兵器(HGV)に対応するなら、これをリアルタイムで探知・追尾し迎撃するためのシステム構築が不可欠だ。いまや地上における安全保障は、人工衛星に代表される宇宙インフラがあって初めて実現する。では、戦略3文書は宇宙に、どのような方向性を打ち出したのか。

   2022年12月に閣議決定された、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画(以下、三つの文書を戦略3文書と呼ぶ)では、2018年の防衛大綱に引き続き、宇宙、サイバー、電磁波といった新領域における安全保障の問題が論じられている。

   本稿では、その中でも宇宙分野における議論を中心に、今後の安全保障戦略がどのように変化していくのかを見てみたい。なお、本稿は筆者個人のものであり、所属するいかなる組織の公式見解でもないことを断っておく。

初めて宇宙での攻撃的能力に言及した「2018年防衛大綱」

 戦略3文書の議論に入る前に、政府の防衛戦略の中で初めて防衛における宇宙の重要性が明記された2018年の防衛大綱から議論を始めておく必要があるだろう。

   この大綱では、初めて防衛目的の宇宙活動が明確に位置づけられた点では画期的であったが、一方で人工衛星を活用した情報収集、通信、測位の強化とSSA(Space Situational Awareness=宇宙状況監視)の能力の強化、人工衛星の機能保証(衛星が攻撃を受けた場合でも代替手段によってその機能を継続すること)が論じられているに過ぎず、これまでの防衛省の活動を超えるものではなかった。他方で、測位に関しては内閣府が進める準天頂衛星、情報収集に関しては内閣官房が進める情報収集衛星が主たる宇宙システムであり、防衛省が所掌を持たない。その意味で、2018年の防衛大綱では既存のシステムをなぞったに過ぎず、新たな活動が提起されたわけではなかった。

 ただ、その中でも興味深いのは「相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力を含め、平時から有事までのあらゆる段階において宇宙利用の優位を確保するための能力の強化」が含まれた点である。これは、他国が指揮統制や情報通信を衛星で行う際に、それを妨害する能力、つまり……

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カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
鈴木一人(すずきかずと) すずき・かずと 東京大学公共政策大学院教授 国際文化会館「地経学研究所(IOG)」所長。1970年生まれ。1995年立命館大学修士課程修了、2000年英国サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授、北海道大学公共政策大学院教授を経て、2020年より現職。2013年12月から2015年7月まで国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書にPolicy Logics and Institutions of European Space Collaboration (Ashgate)、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2012年サントリー学芸賞)、編・共著に『米中の経済安全保障戦略』『バイデンのアメリカ』『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』『ウクライナ戦争と米中対立』など多数。
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