[フランス総選挙]統治経験なき右翼、核保有国フランスを治める不安――国際問題専門誌『グラン・コンティナン』代表ジル・グレサニ氏

――今回の総選挙で、右翼「国民連合」がなぜ、これほど伸張ぶりを示しているのでしょうか。

イタリア出身、フランス高等師範学校在学中にシンクタンク「地政学研究グループ」を設立し、国際問題専門誌『グラン・コンティナン』代表を務める。32歳。[写真:国末氏撮影]
理由はある意味、単純です。今回の総選挙は欧州議会選挙の直後、(大統領エマニュエル・マクロンによる)一方的な解散によって始まりました。選挙期間が極めて短かったため、国民連合が大統領与党に圧勝した欧州議会選の流れ1がそのまま引き継がれたのです。その結果、欧州議会選と同様に、パリを除く国内ほとんどの地域で国民連合がトップとなりました。今や、国民連合が国民議会(下院)で第一党となるのは間違いありません。残された問いは、過半数を得るかどうかです。
現在のフランスの支持層は、右翼と中道マクロン派と左派左翼でほぼ3等分されますが、右翼は30%よりやや多く、中道はやや少ない。中道と左派左翼が連携すると右翼に勝ち目はないのですが、有権者の反応を見ると、連携はうまくいきそうにありません。世論調査では中道支持層の50%あまりが決選で左派左翼に投票するつもりがない。左派左翼支持層の約50%もマクロン派の候補には投票しない。両者が一緒にやるのは、やはり不自然なのです。
ただ、では国民連合に果たして、内閣が務まるか。国民連合の政治家に、閣僚経験がある人物はほとんどいません。真のエリートでこの政党にかかわる人物もこれまでいませんでした。
「ルペン」の名を消す「ジョルダン・バルデラ」という人物
――これまでの連立内閣でも、国民連合は対象外とされてきたのですね。
その理由は、フランス第5共和制の創始者シャルル・ドゴールが、(第2次大戦中ナチス・ドイツに協力した)ヴィシー政権2の流れをくむすべての動きを排除した点にあります。ヴィシー政権は、フランスの歴史の中で偶発に起きた逸脱であり、これに関係する者が主流になってはならないと、彼は考えました。(国民連合の前身)「国民戦線」の結党時には、対独協力者が多数かかわったため、主流になれなかったのです。
――確かに、国民連合の前身「国民戦線」の初代党首ジャン=マリー・ルペン(96)はそのような限界を認識していたように思えます。彼の振る舞いを見ると、彼が真に政権を獲得したいのではなく、むしろ自らの役割を政界の道化師と位置づけていたのでしょう。その政党が現在、政権の一歩手前まで来ています。いったい何が変わったのですか。
1つは、パリのエリートを取り込む戦略に国民連合が取り組んだことです。

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