6月27日の大統領候補によるテレビ討論会に始まり、7月21日のジョー・バイデン大統領による撤退声明に至る約1カ月は、戦後の米国政治史において最も劇的な1カ月であったと言っても過言ではない。7月13日のドナルド・トランプ前大統領暗殺未遂事件を含め、この間に起こったすべての出来事を解説しようとすると、紙幅は到底足りない。しかし、ボトムラインは明らかだ。大統領選挙の様相は1カ月前と一変し、全く違ったゲームとなった。
この間の変化が最も鮮明に現れているのが、民主党内の士気の盛り上がりだ。バイデンの撤退前は絶望感すら漂う状況にあったが、今や雰囲気は一変した。カマラ・ハリス副大統領の選挙対策本部によれば、大統領候補としてのキャンペーンを開始してから最初の1週間で、2億ドルの献金が寄せられ、新たに17万人のボランティアが運動員として登録した。世論調査においても、全国及び接戦州における調査で、トランプ前大統領を追い上げる傾向が見られると、党内は一層活気づいている。
問題はこうした変化が短期的な「蜜月」で終わるのか、それとも今後も持続し、民主党に勝利をもたらすかだ。
選挙情勢について言えば、民主党の追い上げはあっても、現時点ではトランプの優勢を覆すには至っていない。共和党側も当初は候補者の突然の交替に戸惑った様子であったが、今後戦略を練り直し、攻勢を強めてこよう。さらにハリスの参戦によって人種やジェンダーといったアイデンティティーの問題が選挙の帰趨に影響を与える要因として浮上している。そして、何よりもハリス自身が幅広い有権者に対して自らが大統領に相応しい器であることを、説得力をもって示しているとは言い難い。
本稿では、バイデン撤退の経緯を簡単に振り返ったうえで、駐米大使時代の個人的印象も交えながら、ハリスが「100日戦争」と呼ばれる短期戦で勝利するために取り組むべき課題と新たな局面に入った選挙の展望について考察してみたい。
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