
フランスで、初夏の総選挙から約2カ月半を経た9月21日、新内閣がようやく始動した。右派政党「レピュブリカン」(共和主義者)のミシェル・バルニエ(73)を首班とし、大統領エマニュエル・マクロン(46)傘下の与党連合「アンサンブル」が加わる中道右派内閣である。レピュブリカンは総選挙で敗北を喫し、左派左翼連合「新人民戦線」、アンサンブル、右翼「国民連合」の3大勢力から大きく水をあけられて国民議会(下院)の第4勢力にとどまっていただけに、有権者の多くにとって意外な展開となった。
主に右派と中道が閣僚を分け合ったものの、反移民傾向の強い右派最強硬派の元老院(上院)議員ブリュノ・ルタイヨ(63)が内相に就任したことで、右寄り内閣のイメージを強く印象づけた。総選挙前のガブリエル・アタル(35)首班内閣からは、国防相のセバスチャン・ルコルニュ(38)と文化相のラシダ・ダチ(58)が残留した。左派からは唯一、元社会党のディディエ・ミゴー(72)が法相に入った。全般的に知名度に欠ける政治家が多く、かといって若々しいわけでもなく、アピール要素にはやや乏しい布陣である。
アンサンブルに加わる中道政党「民主運動」(MODEM)からジャン=ノエル・バロ(41)が外相に、マクロン直系の政党「ルネサンス」から熱心なウクライナ支持派のバンジャマン・アダッド(38)が欧州担当相に就任し、外交政策に大きな変化はないと見られる。
議会の半数を割り込む少数与党内閣で、法案成立には毎回の困難が予想される。現状だと、右派の首相に反発する新人民戦線の協力を得るのは難しく、法案ごとに国民連合や左派穏健派と協議する国会運営を強いられる。
新人民戦線の戦術ミス、国民連合にとっては潜在的脅威も
首相のバルニエは、混迷を極めた今回の首相選びの中で、最終段階までその名がほとんど取り沙汰されなかった。フランスでは元々地味な政治家と見なされ、大衆人気も高いとはいえないことに加え、近年は欧州連合(EU)での仕事が多く、フランス政界との縁が薄くなっていたからだろう。その意味で、バルニエはやや意表を突く人選であり、しかし政策立案能力や統率力がある程度期待できる人物であることから、それなりに説得力を持っている。見方によっては、マクロンが「1本取った」といえるかもしれない。
ただ、自派からの首相任命を目指した新人民戦線にとって、「1本取られた」と苦笑している場合ではない。僅差とはいえ総選挙で第1勢力になったにもかかわらず、実現不可能な首相候補をしきりに売り込むという戦術ミスにより、空騒ぎの末に首相の座を逃した。その混乱ぶりは有権者の白けを招いており、今後の支持にも影響しかねない。
一方、総選挙で敗れたはずの国民連合は、

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