将来不安から自信回復に向かうシェール革命のハートランド、ペンシルベニア

執筆者:小山堅 2024年10月25日
タグ: 脱炭素
エリア: 北米
天然ガス井戸のそばに立つダイバーシファイド・エナジーの従業員[ペンシルベニア州ワシントン郡フランクリン・タウンシップ=2024年9月24日](C)AFP=時事
9月に米国ペンシルベニア州で開催されたシェール産業の大規模会議では、シェール開発を含む石油・ガス産業の発展に対する関係者らの自信、あるいは将来不安からの自信回復、が見て取れた。大統領選の激戦州の筆頭に挙げられる同州では、環境規制に積極的な民主党のハリス陣営も、シェール開発に対するマイナスの発言を封印している。ただし、シェール開発業界は単なる楽観主義にとらわれているわけではなく、供給チェーンの脱炭素化や社会における受容性確保といった課題に積極的に取り組んでいる。

 世界は今、カーボンニュートラル実現とエネルギー安全保障強化の両立を目指すエネルギー転換の過程にある。この難題を、世界の分断の深刻化という厳しい国際情勢にあって、エネルギー転換に掛かるコストをできるだけ抑制し、暮らしや経済への負担を最小化しながら進める、という二重三重の複雑な制約条件の下で克服していかなければならない。

 この問題の難しさ、複雑さが次第により良く理解されてくるにつれ、世界のエネルギー問題への対応に変化の兆しが表れてきているように筆者には感じられる。それは、現実的で、プラグマティック(実用的・実際的)な解決策の重要性を見直す、という方向の変化である。脱炭素とエネルギー安全保障の両立のためには、イノベーションは欠かせない。CO2フリーの水素の大々的な利活用に代表されるようなイノベーション無くして、カーボンニュートラルの将来像を描くことは難しい。また、こうしたイノベーションを成功させることができれば、その主体(国家・企業)は国際競争で優位に立つことになるため、強力な産業政策の下でクリーンエネルギー分野のイノベーション成功に向けた取組みが強化されている。

「Shale Insight 2024」で活発な議論

 しかし、同時に、どうしてもこうしたエネルギー転換の道筋においては、エネルギーコストの上昇などを通した経済・社会的な負担の増加の回避が難しい、と見られるようになり、コストを抑制することの重要性が世界の主要国で強く認識されるようになっている。

 その下で生じているのが、化石燃料の役割の見直しではないかと筆者は感じる。もちろん、脱炭素の潮流が一気に加速する以前と同様に、化石燃料が長期的にもある意味で盤石な位置づけを有するということではない。脱炭素化の潮流の加速化で、化石燃料の需要が今後急速にかつ大幅に減少していくという見通し(実際にはバックキャストで描かれた将来像)が人口に膾炙する中で生まれてきた不安・不確実性の高まりから、もう少し冷静に、化石燃料の重要性や位置付けを見直す流れが戻ってきたのではないか、ということである。

 この点は特に、天然ガスや液化天然ガス(LNG)において顕著に見られるように思う。先般、広島で開催された世界のLNG関係者のトップが集う「LNG産消会議」においても、LNGがエネルギー安全保障と脱炭素化を進める上で、現実的で信頼しうる重要な役割を果たす、というトーンが強く打ち出されていた。

 また、筆者がそれを強く感じた別の機会として、先月に米国・ペンシルベニア州のエリーで開催された「Shale Insight 2024」という大規模国際会議での興味深い経験がある。この会議は、その名が示す通り、シェール革命のハートランドの一つ、ペンシルベニアで、シェール開発に深く関与する多様な企業や地元政府関係者などが800名以上集う大規模会議であった。そこでは、ペンシルベニア州にとって、米国にとって、そして世界にとって、シェール開発が持つ重要性を強く認識した議論が展開された。

 そもそも、シェール革命無くして、今日の国際エネルギー情勢の現実を理解することはできない。シェール革命の巨大な変化がもたらす「豊かな果実」によって、米国はそしてそのハートランドは大きく受益した。

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執筆者プロフィール
小山堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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