
エネルギー価格高騰がもたらす経済・社会・政治への影響が世界の関心を集める今日、イランを巡る中東情勢が劇的な展開を示し、原油価格が乱高下した。中東の地政学リスクが石油供給不安を発生させ、この問題が世界の重大関心事項であることを改めて再認識させられることとなった。
第2次トランプ政権発足後、アメリカはイランに「最大限の圧力」をかけつつ、同国との核協議を進めた。6月15日に次の協議が行われる予定だったが、直前の6月13日にイスラエルがイランの核施設への軍事攻撃を開始した。イランは直ちに報復を開始、ミサイル攻撃応酬などで両国は本格的な交戦状態に入った。
アメリカは、イスラエルの攻撃開始以来、徐々にイスラエル寄りの姿勢を示し、6月19日にはドナルド・トランプ大統領がイランへの軍事介入について「2週間以内に判断を下す」と述べるに至った。そして6月22日(米国時間21日)、トランプ大統領は、米軍がフォルドゥのウラン濃縮施設などを攻撃したと発表し、世界に衝撃が走った。バンカーバスターなど特殊兵器を使って地下深くに存在する施設を攻撃し、イランの核開発能力の破壊を狙ったものであった。イランも報復を発表し、アメリカとイランの直接の軍事的対峙という未曽有の展開に世界は直面することとなった。
6月23日、イランはアメリカ軍が駐留するカタールのウダイド空軍基地をミサイル攻撃した。一気に緊張が高まったが、イランは攻撃を「事前通知」していたとの報道が流れたため、イランが極めて抑制的に報復攻撃を行ったとの認識が急速に広まることとなった。さらに同日、トランプ大統領が「イスラエルとイランが停戦に合意した」と発表し世界を驚かせた。この「停戦合意」の発表後は、合意がどの程度機能するのか、停戦の下でアメリカとイランの協議が再開されるのか、それがどのような展開を辿るのか、が次の重大関心事となっている。
イランの抑制的報復でリスクプレミアムが剥落
イラン情勢が急展開する中で、原油価格は激しい変動を示し、国際石油市場には深刻な供給不安が駆け巡った。本年4月以降、トランプ関税の影響による世界経済不安の高まりとその下でのOPECプラスの増産傾向によって、原油価格には基本的に下押し圧力が働いてきた。WTI原油先物価格は一時60ドルを割り込むところまで低下したが、イスラエルによるイラン攻撃の前までは60ドル台半ばの推移となっていた。しかし、6月13日にイスラエルのイラン攻撃が報じられると、WTI価格は瞬間風速で14%急騰、77ドル台を付けた。その後も70ドル台半ばの相場が続いていたところ、22日のアメリカによるイラン攻撃という事態を迎えたのである。23日にイランの米軍基地に対する報復攻撃が報じられると、原油価格は瞬間的に上昇したものの、イランの反撃が抑制的であったことや「停戦合意」とのニュースで急落することとなった。その後は、6月13日の攻撃開始の前に近い60ドル台半ばの展開となっている。
この価格乱高下の背景は、地政学リスクが実際の石油供給に結びつくかどうか、という点から読み解くことが可能である。

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