
トランプ2.0が始動して100日が経過した。その内外政策は想像以上のインパクトを持って世界を揺さぶり続けている。その下で、国際エネルギー情勢も激動に晒されている。筆者は4月末にワシントンDCを訪問し、米国政府関係者、エネルギー産業関係者、有識者等と、トランプ2.0の政策動向とエネルギー情勢に関連して幅広く意見交換する機会を持った。その時の所感も交え、トランプ2.0とエネルギー情勢について、現時点での諸問題を考察してみたい。
何といっても、今日の世界で最も高い関心を集めているのはトランプ関税に関わる問題であろう。4月初めに高額の相互関税導入を発表して以来、今後の帰趨と各国による対米交渉の行方を巡って、世界経済は大揺れになっている。4月に発表された国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」最新版では、2025年の世界経済成長率が2.8%とされ、今年1月に発表された同見通しより、0.5ポイントも下方修正された。いうまでもなくトランプ関税によって世界経済が強く下押しされる可能性がある、との見立てでこの下方修正が行われることになった。相互関税導入の発表後、世界同時株安が発生し、国際貿易の縮小とインフレ悪化、さらにはスタグフレーションの可能性さえ懸念されるようになっている。
各国は何とか問題を解決するため、必死の対米交渉に乗り出すようになり、その先陣を切って5月8日には米英が二国間貿易協定の締結で合意、関税引き下げなどを進めることが発表された。今後は日本も含め、主要国との協議がどう進むのかに注目が集まっているが、先行きについて予断は許されない。4月末のワシントンでの意見交換でも、英国などは米国にとって貿易赤字問題が深刻でないため合意が最も容易な国に属する、との分析がなされていた。
また、米国にとって最大の問題は、中国との貿易戦争である。米国が145%、中国が125%の追加関税を相手方に課す異常事態となっており、世界1位と2位の経済大国間の貿易戦争がどうなるかによって、世界経済全体が大きく左右されることになる。5月10日、スイス・ジュネーブで米中間の本問題に関する閣僚協議が初めて実施され、12日には双方の関税を115%引き下げることが発表された。それでも米国の対中関税は30%、中国の対米関税は10%となる。このニュースは世界の注目の的となったが、今後の協議の帰趨にはまだ大きな不確実性が存在している。
大きく切り下がった原油価格
他方、この問題は世界経済の重大問題であるだけでなく、関税を導入した米国にとっても極めて重大な影響を及ぼしつつある点にも注目すべきである。相互関税導入の発表後、米国では、「株安」「債券安」「ドル安」のトリプル安に見舞われ、「米国売り」が発生する状況も見られた。関税政策に対する「市場のリアクション」であると言っても良い。この動きにトランプ政権は反応し、市場の安定も配慮・重視する姿勢を示すようにもなった。こうした状況下、スコット・ベッセント財務長官の存在感が目立つようになっている、との見立てもたびたび聞かされることになった。
市場安定への配慮も重視しつつ、関税政策が米国にとって利益をもたらす、ということをトランプ2.0はできるだけ早期に示す必要がある。懸念される米国への悪影響などについて、国内での批判・不満が高まりすぎる前に「成果」を挙げることが、2026年の中間選挙を睨むトランプ2.0にとって極めて重要になっていると考えられるのである。

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