「セブン&アイ」の未来は「東芝」か「ソニー」か――いよいよ岐路に立つ日本の「コングロマリット経営」

執筆者:長谷川克之 2025年2月28日
セブン&アイHDなどが推し進めてきたコングロマリット経営は岐路に立っている[記者会見するセブン&アイHDの井阪隆一社長=2024年4月10日](C)時事
セブン&アイHDをはじめ「割安」な日本企業に海外からの買収提案が相次いでいる。その「割安」の背景には、買収をテコに成長してきた企業の宿痾ともいえるコングロマリット・ディスカウント(複合企業の企業価値低迷)の問題が無視できない。東芝がコア・コンピタンスへの集中に苦戦を続ける一方で、ソニーや日立といった成功事例も注目される。何が明暗を分けているのか。

 日本企業の事業再編が活発している。M&A(合併・買収)新時代とも言える動きである。英ロンドン証券取引所グループによれば、2024年に世界のM&A案件の公表金額は前年比10%増加したが、日本企業を対象とする案件は50%も増加した。日本は主要国・地域でも伸び率が最も高い国の一つとなっている。特筆すべきは、海外からの日本企業に対するM&Aが件数で17.7%、金額で74.5%と急拡大していることである(レコフデータ社調べ)。

日本企業に世界が熱視線

 日本企業は今、海外のファンドなど投資家や企業から熱視線を浴びていると言える。その背景にはまず、日本経済が30年近く続いたデフレの下での縮小均衡局面から脱却することへの期待がある。日経平均株価の最高値更新や日本銀行のマイナス金利政策の解除と金融政策の正常化への転換が象徴的だ。

 また、企業価値向上と企業買収に向けた機運が高まりつつあることも影響している。2023年3月には東京証券取引所が株価純資産倍率(PBR)1倍割れの企業などを念頭に入れつつ、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請している。PBRが1倍を割れば企業価値が清算価値を下回っていることを示し、会社の存続意義が問われかねない状況である。同年8月には経済産業省が「企業買収における行動指針」を作成し、企業買収における予見可能性が高まることも期待されている。

 加えて、企業価値向上の必要性を認識しつつも、現実問題としては多くの日本企業が「割安」であることの影響も大きい。上場企業のPBRはプライム市場平均(連結総合、単純平均)で1.2倍に留まっている(2024年12月時点)。スタンダード市場では0.8倍と1倍割れである。米S&P500種指数銘柄の平均が約5倍であることと比べても日本企業の割安感は顕著である。為替相場が歴史的な円安局面にあることもあって、海外から見れば日本企業は「お買い得」なのだ。

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
長谷川克之(はせがわかつゆき) 東京女子大学教授。上智大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。調査部、出向先のみずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)で、マクロ経済や経営に関する調査・分析を行う。24年より現職。ロンドン大学経営大学院修了(経営学修士)。著書に、『激震 原油安経済』『中国発世界連鎖不況』(いずれも共著、日本経済新聞出版社)など多数。
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