スイス金融界復活のカギを握る「アルプス地下のデータセンター」

磯山友幸
執筆者:磯山友幸 2011年5月31日
エリア: ヨーロッパ

「スイスの金融機関にとって最も重要なものは何だと思う?」
 東日本大震災から1カ月余りたったある日。スイスを訪ねた日本の投資銀行の幹部は、会食の席でプライベートバンクの経営者から、こんな質問を投げかけられたという。
 スイスの銀行と言えば、地下金庫に眠る金塊を思い浮かべる人が多いだろう。だが、経営者の答えはそうした金塊でも、宝石類でも証書類でもなかった。
 今やスイスの金融機関の生命線は顧客データそのもの。つまりデジタルデータだというのだ。
 日本の銀行幹部は膝をたたいた。というのも、東日本大震災では津波によって金融機関のコンピューターが流されたり、地方自治体が管理する住民基本台帳が失われて、大きな問題になっていたからだ。
 また震災直後には、みずほ銀行のシステムトラブルが発生。1週間にわたって、振り込みができなくなったり、現金自動預け払い機(ATM)が停止して、現金が引き出せなくなるなど、大きな社会問題になった。顧客のデータが何よりも大事だというスイスの銀行家の話に、反論の余地は無かった。

核攻撃にも耐えられる陸軍の「地下要塞」

 だが、ここからがスイスならでは、の話になるのだ。
 その顧客データを守るために、スイスではアルプスの地下深くの壕に、データセンターを構築。データのバックアップを保管するプロジェクトが進んでいるというのだ。既にそのサービスの一部が始まっているという。
 プロジェクトの名前は「マウント10(テン)」。スイス国軍と国軍OBが設立した民間会社の共同プロジェクトで、株式会社形態を取っている。
 スイス西部の高級リゾート、グシュタードに近い山岳地帯に陸軍が保有してきた地下要塞を再利用。「フォート・ノックス」と呼ぶデータセンターに改造した。フォート・ノックスⅠとⅡの2つのセンターを持ち、外部とはケーブルや電波塔などで結ばれている。
 この地下要塞は冷戦時代に核戦争に備えて作られたものだという。地下水を利用するなど、外部から完全に独立した環境を確保している。ソ連が崩壊したことから、軍事的には無用の長物と化していた。
 当然とも言えるが、同社のホームページではこのフォート・ノックスが「いかなる軍事的、民事的脅威に対しても耐えられる構造だ」と記している。つまり、「核攻撃にも耐えられる」というのが謳い文句の、世界で最も安全性の高いデータセンターなのだ。

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執筆者プロフィール
磯山友幸
磯山友幸 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)などがある。
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