ブータン・ブームの陰に「成長しなくていい」症候群

磯山友幸
執筆者:磯山友幸 2012年2月2日
結婚した国王夫妻の到着を沿道で待つブータンの人々(c)AFP=時事
結婚した国王夫妻の到着を沿道で待つブータンの人々(c)AFP=時事

 昨年11月、ブータン王国のジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王と、10月に結婚したばかりのジェツン・ペマ王妃が国賓として日本を訪れた。日本の着物に似た民族衣装に身を包んだ国王は皇居での歓迎式典や国会での演説のほか、慶應義塾大学での演説などを精力的にこなした。国交樹立以来25年に及ぶ日本の協力に感謝すると共に、東日本大震災で傷ついた日本を励まし、日本の復興に祈りを捧げた国王の実直で虚勢を張らない謙虚な姿勢に、多くの日本人が共感を覚え、国中で大きな話題となった。  ブータンはヒマラヤ山脈の南側に位置する。九州とほぼ同じ面積の国土に、東京都練馬区並みの70万人が住む。仏教国で、正式な国名は「ドゥック・ユル(雷竜の国)」で、国旗にもこの竜が描かれている。

にわかに注目を集めた「GNH(国民総幸福)」

 その小さな国の国王夫妻の来日で、にわかに注目された言葉が「GNH(国民総幸福)」だった。ブータンは、国内総生産(GDP)という物質的な豊かさを示す指標ではなく、国民の幸福感の総量としてのGNHを増やすことを国家の目標として掲げているのだ。先代の国王が始め、1970年代から続いている施策である。地球温暖化や公害、人々の精神的な荒廃などが先進国や新興国の大きな問題になる中で、「持続的な成長」をどう実現していくかに世界の関心が集まっているが、そんな流れの中で、ブータンのGNHが改めて注目されている。
 日本でも、リーマンショック以降の景気低迷と止まらない円高、デフレに加え、昨年3月11日の東日本大震災によって、国民の間にも単なる物質的な成長に対する疑問が広がっていた。そんな折の国王夫妻の訪日だったこともあり、GNHが関心を呼んだのであろう。
 実は筆者は、3月11日の朝、成田空港を飛び立ち、ブータンに向かっていた。GNHについて取材し、ブータンという国の素顔を知るのが目的だった。震災直後からブータンでは国王の指示で国土に点在する寺々で灯明が灯され、祈りが捧げられた。財政的に決して豊かとは言えない政府が、いち早く義援金の拠出を申し出た。そんなブータンの善意を肌身に感じる旅だった。当初の目的だったGNH委員会のトップであるカルマ・ツェテーム長官にインタビューすることもできた。

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執筆者プロフィール
磯山友幸
磯山友幸 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)などがある。
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