原発と司法(下)「マグニチュード7.3」をめぐる攻防

執筆者:塩谷喜雄 2012年3月12日
エリア: 日本

 原子力安全委員会は2003年の「もんじゅ」高裁判決を受けて「耐震指針」の見直しを加速し始めた。阪神・淡路大震災以来、耐震指針の基礎にある評価手法の科学的信用性に、強い疑問が裁判所だけでなく学界内部からも噴き出し、新しい地震学を反映せざるを得なくなっていた。

「もんじゅ」判決からさらに踏み込んだ金沢地裁判決

画期的な判決だったが(c)時事
画期的な判決だったが(c)時事

 2006年3月24日、金沢地裁は、同月に営業運転を開始したばかりの最新鋭原発、北陸電力志賀原発2号機に運転差し止めの判決を下した。判決理由を普通の日本語に直すと、備えるべき地震の想定も、耐震設計基準も、ともに科学的・合理的根拠を欠いていて、運転を許容できるほどの耐震強度が確保されているとはとても言えない、というものだ。  03年の「もんじゅ」高裁判決よりもさらに踏み込んで、最新鋭原発といえども、こんなずさんな耐震基準では、本当に襲来する可能性がある地震には耐えられず、北陸電力が施したという多重防護など役に立つはずはないとまでいって、裁判所が安全神話の虚構を断罪したのである。  多重防護は機能せず、地震・津波の一撃で放射能漏れにつながった3.11の福島第一原発事故を、まるで予測していたかのような、鋭い指摘である。  志賀原発2号機は、出力120万キロワット、最新技術を投入した進化型のABWR(改良型沸騰水型原子炉)である。1999年に着工して、06年の3月に運転開始した矢先に、差し止めを食らってしまった。  北陸電力にとっては2基目の原発で、期待の星。その運転が差し止められたら、電力の供給に支障をきたすと、被告の北陸電力は反論した。しかし、金沢地裁の裁判官は、水力の豊富な地域の電力供給構造からして、原発の運転差し止めによる供給不安はあり得ないと、脅しに似た北陸電力の主張をぴしゃりと退けている。  これも、3.11以降の原発再稼働を狙う電力不足の恫喝キャンペーンを、まるで見通していたかのような指摘ではないか。

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執筆者プロフィール
塩谷喜雄 科学ジャーナリスト。1946年生れ。東北大学理学部卒業後、71年日本経済新聞社入社。科学技術部次長などを経て、97年より論説委員。コラム「春秋」「中外時評」などを担当した。2010年9月退社。
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