開拓者精神に根差すノジックの「最小限国家論」

会田弘継
執筆者:会田弘継 2006年8月号
カテゴリ: 国際 文化・歴史
エリア: 北米

 世界一の富豪であるマイクロソフト会長ビル・ゲイツ氏(五〇)夫妻が運営する約三百億ドル(約三兆四千億円)の慈善基金に、世界第二の富豪で投資家のウォーレン・バフェット氏(七五)が自分の資産の大半である三百十億ドル(約三兆六千億円)を寄付した。六月末に世界をびっくりさせたニュースである。アメリカ史上最高の寄付額だ。石油王ロックフェラーや鉄鋼王カーネギーといった歴史上の大富豪も基金を寄付したが、額は現在のドルに換算して数十億ドル。ケタが違う。富豪バフェット氏は元来、「子孫に美田は残さず」の信条の持ち主だという。 こんな話を持ち出すのは、政府の規制をとことん嫌うリバタリアニズム(自由至上主義)という思想を考えるとき、この大富豪のエピソードは示唆に富むからだ。「最善の統治は最小限の統治である。人は自らを律することができるから」と言った、アメリカ独立宣言の起草者トーマス・ジェファーソンの思想に始まり、常に「大きな政府」を嫌う潮流がアメリカにある。 そうした考えに惹かれ、「小さな政府」で規制の少ない自由な社会を積極的につくり出そうとする人たちが自らをリバタリアンと呼ぶ。彼らが自覚的な思想・政治運動を繰り広げるようになったのは、第二次大戦後、一九五〇年代ごろからだ。そのリバタリアン思想に常に問われるのは、果たして「小さな政府」で公平な社会がつくれるのか、という問題だ。それを考えるうえで、バフェット氏の行為は興味深い。

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執筆者プロフィール
会田弘継
会田弘継 青山学院大学地球社会共生学部教授、共同通信客員論説委員。1951年生れ。東京外国語大学英米科卒。共同通信ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。2015年4月より現職。著書に本誌連載をまとめた『追跡・アメリカの思想家たち』(新潮選書)、『戦争を始めるのは誰か』(講談社現代新書)、訳書にフランシス・フクヤマ『アメリカの終わり』(講談社)などがある。
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