中東―危機の震源を読む
中東―危機の震源を読む(22)

「痛み分け」のレバノン紛争 将来への希望と危惧と

池内恵
執筆者:池内恵 2006年10月号
カテゴリ: 国際
エリア: 中東

[カイロ発]七月半ばから八月半ばにかけてイスラエルとヒズブッラー(ヒズボラ=シーア派軍事・政治組織)の間で行なわれたレバノンでの大規模な戦闘によって、レバノン政治と中東の地域秩序にはどのような変化がもたらされたのだろうか。停戦後の外交や内政の動向を含めて、まとめてみたい。バランスを取るシニョーラ政権 まず、この戦闘で勝者は誰だったのか。アラブ諸国の世論では「ヒズブッラーが勝った」ということになっている。アラブ民族主義者は五十年前の英雄故ナセル・エジプト大統領と並べてヒズブッラーの指導者ナスラッラーの写真を掲げた。 当のレバノンでは話はそう簡単ではない。ヒズブッラーにとっては確かに「大勝利」だった。レバノンの多くの勢力が、少なくとも表向きは反イスラエルの立場でヒズブッラーへの支持を表明せざるを得ず、一般市民の被害に対して国際的に非難が高まり、国内外のモラル・サポートの獲得という意味で完勝である。これによってアラブ域内での威信をこれまでになく高め、レバノン内政での地位を上昇させただけでなく、昨年二月十四日のハリーリー元首相爆殺をきっかけに反シリア・親欧米路線が「三月十四日勢力」に結集し優位に立っていたレバノン政治の流れを一気に変え、イスラエルとの武力紛争を内政の主要課題とするようにレバノン諸勢力を追い込んだ。

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執筆者プロフィール
池内恵
池内恵 東京大学先端科学技術研究センター准教授。1973年生れ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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