強くなりすぎた皇帝プーチンの「野望と陥穽」

執筆者:内藤泰朗 2008年1月号
カテゴリ: 国際
エリア: ロシア

[モスクワ発]十二月二日に投票が行なわれたロシア下院選挙(定数四百五十)でプーチン大統領が圧倒的な“信任”を得たことで、プーチン氏の皇帝化が現実のものとなってきた。二〇〇八年五月の大統領任期満了後も事実上のロシア最高指導者として君臨することを認められたプーチン氏は、今後、新たな“院政”の構築に向けた動きを加速させてくることだろう。旧ソ連国家保安委員会(KGB)人脈が牛耳る「プーチン王朝」の国家資本主義体制建設は、いよいよ第二段階に入る。
 中央選挙管理委員会によると、各党の確定得票率は統一ロシア六四・三%、ロシア共産党一一・五七%、自民党八・一四%、公正ロシア七・七四%。最低ラインの得票率七%を超え、新下院で議席を獲得するのはこの四党だけとなった。改革派と呼ばれた民主派議員の姿は完全に下院から消えた。一方、ロシア連邦保安局(FSB)元幹部のリトビネンコ氏毒殺事件で、英国が容疑者と断定し身柄の引き渡しを求めているKGB出身の実業家、ルゴボイ氏は当選した。これらが、今回の選挙の性格を象徴している。
 プーチン氏自らが率いる与党・統一ロシアは単独で三分の二を大きく上回る議席を獲得。共産党を除くプーチン翼賛三政党を合わせると、三百九十三議席と実に九割近くの下院議席をプーチン派が占めることが確実となった。一党独裁体制を彷彿とさせるこの議席数は、大統領弾劾や憲法改正を容易に可能とする。プーチン氏はこれで、〇八年春に誕生する後継大統領の“謀反”に、にらみを利かせられるというわけだ。
 同国南部のチェチェン共和国では投票率が九九%を超え、全体主義国家の北朝鮮やソ連時代を想起させた。欧米の選挙監視団は「選挙は公正でなく、民主的選挙の基準に達していない」と表明したが、ロシア側はこれにかみつき、「投票率が高いことは素晴らしいことだ」(チュロフ中央選管委員長)とコメントした。
 確かに選挙は欧米の基準には達していなかったが、同時に国民のプーチン熱を見せつけた。「統一ロシア」のグリズロフ党首(下院議長)は二日、上気した面持ちで「投票によってプーチン氏が国民の指導者で、国民が彼の路線を支持していることが確認された。彼の路線は続く」と“勝利宣言”。大統領退任後も、プーチン氏が指導者として君臨し続けるとの見解をはっきりと示した。
 国民の多くがプーチン支持を表明した最大の理由は、安定への強い願望だろう。ゴルバチョフのペレストロイカ(再編)、エリツィンの改革で大混乱に陥った社会に不満を抱いてきた多くの国民が、国力を回復させ、秩序と安定をもたらしたプーチン氏の続投を望んだことが何より大きい。そして、政権による言論統制や世論操作によって、民主派野党側は「悪者」「非国民」のレッテルを貼られ、その声や活動が圧殺されたことも、重要な原因のひとつである。

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