【ブックハンティング】

執筆者:増井朔 2001年11月号
カテゴリ: 書評

「我々がこれほどまでに憎まれているとは思わなかった」 同時多発テロに対するアメリカ市民の反応に、こうした声が散見された。「グローバリズム」という名の米国型資本主義に対する呪詛の深さは「経済」という枠組みにとどまらない。 フランスの小説、ミシェル・ウエルベック『素粒子』の行間からも、この呪詛の声が響いてくる。恋愛小説の体裁を借りたこの小説が描き出したのは、「アメリカに起源を持つセックス享受型大衆文化」のもたらした性愛幻想にふりまわされた後の寒風吹きすさぶ精神の荒野だ。 主人公の二人、ミシェルとブリュノは共に親に捨てられたと言っていい異父兄弟。ミシェルは高名な分子生物学者。幼馴染みからの求愛を拒否して以来、研究一筋の堅物だ。冴えない高校教師のブリュノは性的な快楽を求めて風俗産業をさまよい、やがて妻のもとを離れ、フリーセックス教団を思わせる「変革の場」に潜り込む。四十過ぎにして早くも精神的に行き詰まってしまうまでの二人の対照的な人生をたどって物語は進む。「あとがき」によれば、本書の刊行(九八年)は本国では「一個の事件」だったのだろう。熱狂的な支持と反発の理由は、フランス文化を象徴する進歩派知識人「六八年世代」(日本の団塊の世代にあたる)を攻撃の対象にしたためである。

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