「遊民経済学」への招待 (14)

日本版カジノ法案の本当のところ

執筆者:吉崎達彦 2015年10月3日
エリア: 北米 アジア

 あらためて当連載の問題意識を繰り返してみよう。
 今は世界的に生産力が向上したので、昔に比べて少ない人数でモノが揃ってしまう。その分、昔に比べて暇な人が増えている。それから途方もない富裕層もできているのだが、彼らには富と時間を使う適当な方法がない。この状況を放置しておくと、雇用が足りなくなるし、格差も固定するということになりかねない。だからサービス産業を進化させなければならず、そこに「遊び」をビジネスとして育てていく必然性がある。
 例えば、世界的にツーリズムが活況を呈しているのは良い傾向といえる。人の移動は需要に限りがない。究極の平和産業でもあるし、環境に対する負荷も小さい。SNSなどの技術は、旅行に関する情報交換を活発化して、ツーリズムを盛り上げてくれる。特に日本のように高齢化が進んだ先進国の経済活動が、「モノづくりから思い出づくりへ」とシフトしていくのは自然な成り行きであろう。
 いわば「必要性の経済学」の時代が終わり、「遊民経済学」が求められている。そんな中で、ギャンブルは産業として可能性を秘めていると思うのだが、前回の競馬の項目で述べた通り、むしろ近年ではわが国のギャンブル産業は衰退傾向にある。そしてまた、新たなギャンブルを解禁しようとすれば、日本社会や文化が内包するさまざまな禁忌と向き合わなければならない。
 そこで今回はギャンブルの王様たる「カジノ」を取り上げてみる。いや、世界の潮流でいうところのゲーミング産業、と呼ぶのが正しいのかもしれない。果たしてこのビジネス、日本で育て上げることができるのかどうか。その際のメリットとデメリットとは何なのか。その前にこの話、あまりにも誤解が多く広がっているようなので、まずは現在進行中の事態をご紹介しよう。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
吉崎達彦(よしざきたつひこ) 双日総合研究所チーフエコノミスト。1960年(昭和35年)富山市生まれ。一橋大学社会学部卒業後、1984年日商岩井(現双日)に入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会調査役などを経て現職。新聞・経済誌・週刊誌等への執筆の他、「サンデープロジェクト」等TVでも活躍。また、自身のホームページ「溜池通信」では、アメリカを中心に世界の政治経済について鋭く分析したレポートを配信中。著書に『溜池通信 いかにもこれが経済』(日本経済新聞出版社)、『1985年』(新潮新書)など、共著に『ヤバい日本経済』(東洋経済新報社)がある。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top