ドイツ「脱原発」の現在(上)「送電網」整備という大問題

篠田航一
執筆者:篠田航一 2016年6月3日
エリア: ヨーロッパ

 ドイツ人は論理的に物事を考える人々だと言われる。筆者は2011年から4年間、新聞社のベルリン特派員としてドイツで仕事をしたが、確かに政治家も芸術家も、時には子供でさえも、だいたい理詰めで、すがすがしいほど明快にハッキリ語る人が多かった。だが、裏返して言えば、いわば「理屈っぽい」人たち。「そこはまあ、なんとなく」という日本的な「グレー決着」が通じない。規則優先で、融通が利かず、議論好きで時に冷酷。そんな一面もよく感じていた。

現在でも「撤退」は全政党一致

 2011年3月の東日本大震災後、主要国で真っ先に原子力発電との決別を宣言したのはドイツだ。現在でも、日本の衆議院にあたる連邦議会(下院)に議席を持つすべての政党が「原発撤退」で一致しており、与野党問わずこの方針は揺るがない。
 彼らの論理はやはり明快だ。程度の差こそあれ、結局、議論は「原発にはリスクがある」という1点に集約される。「テロや震災が起きたら、そのリスクをドイツは背負い切れない」というわけだ。
 福島第1原発の事故直後、ドイツは国内17基の原発のうち老朽化していた8基を緊急停止し、その約3カ月後には2022年までの段階的な原発全廃を盛り込んだ改正原子力法を成立させた。その意思決定に大きな役割を果たしたのが、メルケル首相の諮問機関として設置された「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」だ。この委員17人の構成は面白い。政治家や学者、企業人らに加え、人々の生き方という観点から教会の代表も入っており、文字通り「倫理面」を重視する姿勢がうかがえる。
 倫理委員会は11年5月、「10年以内の脱原発は可能」とする報告書をまとめた。原発のリスク自体は「福島事故によって変化したわけではない」としながらも、「リスクの受け止め方が変化したのだ」と断じ、「日本のようなハイテク国家で事故が起きた事実により、ドイツでそのようなことは起こり得ないという確信は消失した」と指摘している。
 そして、原子力エネルギーが「豊かな生活」を約束したかつての時代を、「今日から見れば、それは大それた未来のユートピアだった」と振り返ったうえで、「少なくともドイツでは、もはや通用しない」と指摘した。
 この勧告から1週間後、メルケル政権は「2022年末までの脱原発」を閣議決定したのだ。

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執筆者プロフィール
篠田航一
篠田航一 しのだ・こういち 1973年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。97年、毎日新聞社入社。甲府支局、武蔵野支局を経て、東京本社社会部で東京地検特捜部などを担当。ドイツ留学後、2011年から4年間、ベルリン特派員として主にドイツの政治・社会情勢のほか、ウクライナ紛争などを現場取材。15年5月より青森支局次長。著書に『ナチスの財宝』(講談社現代新書)。
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