対談『中央銀行が終わる日』(下)貨幣発行を自由化して新たな役割を

 日銀と政府が一体化してのデフレ対処だったが、格差が開きジリ貧の未来しか見えないなら、民意は一か八かの賭けに出かねない――そんな前半の流れを受け、後半では中央銀行が目指すべき新たな役割へと話は及ぶ。

萱野 『中央銀行が終わる日』の最後で岩村先生は「中央銀行に最後に残された役割は価値尺度の提供だ」というお話をされています。例えばいろんな銀行が貨幣利子率のついているような貨幣を出して、そこが競争していく。それに対して最終的に社会の価値尺度を提供するのは中央銀行の役目で、そこの部分はたぶんなくならないだろう、と。
 要するに『中央銀行が終わる日』と言いつつ、実は終わらない。ビットコインのような可能性を最大限拡大して考えたとしても、中央銀行の役割は実は終わらないと私は読んだ。

岩村充・早稲田大学大学院教授

岩村 しかし、中央銀行は金融政策を行うという理由があるから、貨幣の独占発行権を与えられているんですよ。この本の背景にあるのは、ハイエクという経済学者の「貨幣発行自由化」あるいは「貨幣も競争のもとにさらすべきだ」という主張ですが、この主張は面白い主張として多くの人の心をとらえる一方で、非現実的なものと片付けられてしまっていた面もありました。それは、ハイエクの言うとおりにしたら金融政策がやれなくなる、それは困ると考えられてきたからです。しかし、それは思考の出発点が違うのです。あの本の冒頭にも書いておいたことですが、ハイエクはそもそも金融政策不要論の立場なのです。
 まあ、中央銀行の「中央」というのが、貨幣発行を「独占」するという意味なのであれば、やはり終わるのは「中央」銀行です。もっとも、今の中央銀行の果たしている役割の全部がなくなっていいのかというと、僕もそうは思っていません。なくなったら困る役割が、財貨や資源の価値を測り、契約の基準になる貨幣を供給するという役割です。ただ、その役割を果たすのだったら「独占」は不要でしょう。ハイエクの言うように「競争」で良いじゃないですかというのが僕の言いたかったことです。円だってよいしドルでも構わない、いやビットコインでもいいし、新しく現れるであろう挑戦者が作り出すデジタルマネーでもいい、そう考えて欲しいんです。
 そうすると生まれるのは、中央銀行通貨だけでない多様な通貨が競争する世界ですね。でも、そんな世界が本当に生まれたら、いまの中央銀行たちは退場になるかもしれないでしょう。中央銀行が金融政策などという看板に縋り付いていると、その重荷のせいで競争に負けるからです。
萱野 最終的には価値の尺度だけが重要だ、と。
岩村 物価や景気を操るのだといいながら失敗を重ねてきた中央銀行でも、ここに専念すれば存在意義を維持できる望みがあるということですが、言い方がきつすぎますか。
萱野 私が前著の『貨幣進化論』から読み取った貨幣の安定性というものの背景、貨幣が貨幣である理由の1番根本には徴税活動があると思っているんですが、それは変わりませんよね。
岩村 そう考えてもらって構いません。
萱野 中央銀行が発行する貨幣は、最終的には政府サービスの対価である税収と結びついていて、それで価値が維持されている。徴税によって価値を担保されているからこそ、中央銀行の貨幣の価値は信頼されるに足る。これを「価値のアンカー」という言い方をされていました。
 昔は実物的な金(きん)を担保にしていましたが、金本位制がなくなって、何もなくなったかのように見えるけれども、実はそれは政府の徴税活動と結びついている、というのが『貨幣進化論』でのお話でした。では、ビットコインは何なのですか。

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執筆者プロフィール
岩村充
岩村充 1950年、東京都生まれ。東京大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行。ニューヨーク駐在員、日本公社債研究所開発室長、企画局兼信用機構局参事を経て、1998年、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授に就任。現在は同大学院経営管理研究科教授。著書に『電子マネー入門』(日経文庫)、『サイバーエコノミー』(東洋経済新報社)、『貨幣の経済学』(集英社)、『貨幣進化論』(新潮選書)など。最新刊に『中央銀行が終わる日』(新潮選書)。
執筆者プロフィール
萱野稔人
萱野稔人 1970年、愛知県生まれ。早稲田大学文学部を卒業後フランスに留学し、2003年、パリ第十大学大学院哲学科博士課程を修了、哲学博士。津田塾大学学芸学部国際関係学科教授。著書に『国家とはなにか』(以文社)、『カネと暴力の系譜学』(河出書房新社)、『権力の読みかた』(青土社)、『金融危機の資本論』(本山美彦氏との共著、青土社)、『暴力と富と資本主義』(角川書店)など。
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