連載小説 Δ(デルタ)(44)

執筆者:杉山隆男 2018年2月17日
エリア: アジア
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

前回までのあらすじ】

巡視船「うおつり」を乗っ取り、魚釣島に上陸を果たした愛国義勇軍に見えた、わずかな隙間。そして「うおつり」での、市川の行動。官邸は、新たに「うおつり」奪還作戦を計画する。一方門馬は、総理の方針に異を唱えた田所外相のところにむかった。

 

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 凪ぎの海なのに、吹き下ろしにも似た、ゴオーッという低い唸りが遠く空から降ってくる。市川が見上げると、綿をちぎったような雲が点々と広がっている暗い夜空の2時方向に白く瞬く光が見える。一定の間隔をおいてストロボのように放たれるその白光は、雲の中にまぎれても、自分の居場所を告げるかのように薄い雲の層を漉して、内側から鋭いきらめきを発している。

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執筆者プロフィール
杉山隆男(すぎやまたかお) 1952年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。1996年『兵士に聞け』で新潮学芸賞受賞、以後『兵士を見よ』『兵士を追え』とつづく「兵士シリーズ」は7作目の『兵士に聞け 最終章』で完結した。ノンフイクション、小説、エッセイなど精力的に執筆し、『汐留川』『昭和の特別な一日』『私と、妻と、妻の犬』など著書多数。
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