日本のサステナブルな食生活のカギは「タンパク質の多様性」――肉の消費量が減少するドイツとの比較

2023年5月3日
エリア: アジア ヨーロッパ
世界的な肉消費量の増大傾向の中、ドイツでは消費量が減少しているのはなぜだろうか(takedahrs / Pixabay
世界の肉需要は人口増や新興国の経済成長から増大が続くが、中には減少傾向がみられる国もある。その代表格がドイツだ。環境先進国といわれるドイツの消費動向から、サステナブルな食市場を考える。

 世界の人口増に伴い、食料需要量は増加する見通しだ。三菱総合研究所によると、2050年には、2010年比で1.6倍に増加する。そのうち、とりわけ肉・卵・魚・乳などの「タンパク源」の増加率は高く、1.7倍に増加する。(図1)

図1:世界のタンパク源需要の動向(1990-2010:実績、2020-2050:MRI推計)

 この著しい増加の理由は(1)人口増加、(2)経済成長による肉需要の増加だ。

 一方で、人口や経済成長が成熟期を迎える国では、高齢化等の影響もあり需要増のペースが落ち着くか逆に減少に転じる傾向がある。減少傾向が特に強い国のひとつがドイツだ。(表1)

表1:G7とBRICSの肉の国内消費仕向量変化率・人口増加率(1990-2019)

 

 ドイツでは、一体何が起きているのか? その考察から、世界的な食料需要増による地球の持続可能性低下への対応策が見えてくるかもしれない。

肉の消費量は独で減少傾向、日本は増加

 国別の動物性タンパク源の国内消費仕向量1(図2、以降消費仕向量という)に示すように、ドイツでは1990~2019年の約30年の間に動物性タンパク全体が減少傾向にある。これは日本にも共通している。しかし、肉に着目してみると、ドイツでは減少傾向、日本では増加傾向にあることがわかる。

図2:ドイツと日本の動物性タンパク質国内消費仕向量(一人あたり)の内訳(肉・卵・魚)

 ドイツでの肉の消費仕向量の減少の理由として考えられるのが、タンパク摂取源の代替だ。

 とりわけ、ドイツではプラントベースフード市場2の拡大が著しい。USDA(アメリカ合衆国農務省)のレポート3によると、ドイツでは、2022年時点で800万人(人口の10%)がベジタリアン、158万人(2%)がビーガンを自認。10年前の調査時にはビーガンを自認する人が10万人だったところから、急激に成長している。

 また、人口の55%が「パートタイム・ベジタリアン」または「フレキシタリアン」だという4。ドイツの食品小売における代替肉売上高は、2021年には前年比32%増の7億2000万米ドル超となっている。この増加傾向を牽引しているのは、女性・若年・高学歴層だ。

植物性シフトの背景にある気候変動影響への懸念

 従来、タンパク源のうち肉の割合が高かったドイツにおいて、消費者はどのような理由で食生活を変化させているのだろうか。

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執筆者プロフィール
山本奈々絵(三菱総合研究所)() 株式会社 三菱総合研究所 経営イノベーション本部シニアコンサルタント 2012年京都大学大学院工学研究科修士課程を修了し、同年三菱総合研究所入社。 専門領域は、食農ビジネス、次世代フードシステム、持続可能な地域産業づくりなど。 情報発信実績としては、『スリーエックス 革新的なテクノロジーとコミュニティがもたらす未来』(ダイヤモンド社、2021年)、 『あらためて食料安全保障と向き合う』(三菱総合研究所、2022)など。
執筆者プロフィール
木村元則(三菱総合研究所)() 株式会社 三菱総合研究所 経営イノベーション本部コンサルタント 2019年京都大学大学院農学研究科博士後期課程を修了し、同年三菱総合研究所入社。 専門領域は、食農ビジネス、地域産業振興など。 情報発信実績としては、『あらためて食料安全保障と向き合う』(三菱総合研究所、2022)など。
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