【前回まで】帰国した都倉響子は、党四役から総務会長解任と党員除名を告げられる。議員辞職の要求を辛うじて突っぱねた都倉にとって、江島元総理からの電話だけが救いだった。
Episode5 四面楚歌
17
衆議院第一議員会館の地下駐車場に到着した都倉は、ダークスーツの集団に取り囲まれた。
「外務省北米局次長の甲斐と申します。大臣が、至急お会いしたいと申しておりまして、お時間を戴けないでしょうか」
甲斐は、名刺ではなく身分証明書を示した。
大臣のお遣いに、北米局次長がやってきた意味を察して、都倉は素直に従った。
第一秘書の木戸が続こうとしたが、止められた。
「申し訳ございません。都倉先生、お一人でお願いできますか」
木戸が抗議しようとしたが、都倉が「大丈夫よ」と押しとどめ、一人で黒塗りの公用車に乗り込んだ。
繁森外相は、ホテルオークラの一室で待っていた。
これは、公式な面談ではない、という意味だ。
相変わらず、慇懃な繁森は、律儀に腰を上げて迎えた。
「この度は、色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません」
繁森に奨められるままに、ソファに腰を下ろした。大臣を囲むように、北米局長や、安全保障担当審議官などのお歴々が並んでいる。
「各方面でハレーションが起きています。中でも、アメリカからの抗議は激怒といってもいい。深刻な外交問題になる可能性もあり、そこで、都倉先生にご協力戴いて、善処する必要があります」
「畏まりました。それで、何をやればいいですか」
「アメリカの情報機関が、先生から直接お話を伺いたいそうです」
それを外務大臣が仲介するのか。……
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。