“防衛特需”三菱重工は大型プロジェクト「看板倒れ」の暗黒時代を抜け出ているのか

執筆者:杜耕次 2024年2月13日
エリア: アジア
米スペースXなど宇宙開発ビジネスでのライバルも初期の失敗は経験した。ここから信頼獲得と受注増のサイクルを回すことが「ものづくり能力」の根幹だ[飛行に失敗した「H3」1号機=2023年3月7日午前、鹿児島・種子島宇宙センター](C)時事
株価は1年前の2倍以上。防衛予算増額の恩恵を最大限に受けた企業を選ぶとすれば、三菱重工は筆頭格だ。だが、長年の重工ウォッチャーたちの懸念は消えない。建造中の豪華客船が不審火で燃え、MJ開発で1兆円が水泡に帰した2000年代以降の大型プロジェクト「看板倒れ」の暗黒史は、難航中のH3ロケット事業にも影響しているのではないだろうか? ものづくり能力に構造的問題を抱える企業であるならば、そこに巨額の資金が向かうのは危うい。

 第2次世界大戦期までアメリカには「軍需産業の巨人」は存在しなかった。参戦当初、兵器の生産を主に担ったのは軍需専業メーカーではなく、それまで民需品を手がけていた大企業だった。「シャーマン」戦車を製造したのは英系プレスド・スチール・カー・カンパニーなどの鉄道車両メーカーであり、軍用自動車「ジープ」を生産したのはウィリス・オーバーランド・モーターズ【旧クライスラー傘下の自動車会社】やフォード。ゼネラル・モーターズ(GM)は「フィッシャーP-75」はじめ戦闘機の製造なども手がけ、ゼネラル・エレクトリック(GE)は軍用航空機向けのエンジンなどを開発・生産。「B-29」など爆撃機を手がけたボーイングも大戦以前は民間航空機部門が主力だった。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が毎年発表する軍需企業の世界ランキング(2022年版)で現在トップ3を占めるロッキード・マーチン(売上高約594億ドル=約8兆8000億円)、RTX【旧レイセオン・テクノロジーズ】(396億ドル)、ノースロップ・グラマン(323億ドル)の米3社はいずれも1990年代半ばに業界再編目的のM&A(合併・買収)で誕生した。

 それぞれの前身企業は、例えば、世界恐慌勃発後の1932年に一度経営破綻した民間機メーカーのロッキード、同年そのロッキードからスピン・アウトした設計技師のジャック・ノースロップが技師仲間のドナルド・ダグラスの支援で立ち上げた航空機製造会社がノースロップ、ダグラスが1921年に設立したダグラス・カンパニーは後にマクドネル・ダグラス【1997年にボーイングに吸収合併】に発展する。そして、マイクロ波レーダーの開発を地道に続けていたレイセオンなど、1940年代までは「いつ倒産してもおかしくない」弱小企業が大半だった。成長軌道に乗ったのは大戦とその後の朝鮮戦争、ベトナム戦争の特需のお陰である。

「防衛事業1兆円」なら世界20位前後の軍需企業に

 第2次安倍晋三内閣が佐藤栄作内閣以来半世紀近く国是としてきた「武器輸出三原則」を廃し、武器輸出を事実上解禁する「防衛装備移転三原則」を政府方針に定めてから10年。現首相・岸田文雄(66)が2023年度から5年間で防衛費を従来の2.5倍となる約43兆5000億円に増やす方針を打ち出したことを背景に、日本にも「軍需産業の巨人」が誕生しつつある。三菱重工業である。

 2023年11月6日、三菱重工は第2四半期(4〜9月期)決算説明会で「航空・防衛・宇宙」部門の通期受注高見通しを期初予想の1兆円から8割増の1兆8000億円へ大幅に上方修正。上半期だけで受注高は当初の通期予想にほぼ匹敵する9994億円に達した。主に相手艦艇を脅威圏外から攻撃する能力を備える「スタンド・オフ防衛」関連で、同社は12式地対艦誘導弾(12SSM)の長射程化や潜対艦ミサイルの水中発射化などの大型案件を受注。下期以降も高水準の受注が続く見通しで、同社は同年11月22日に開いた防衛事業説明会で、従来5000億円弱で推移してきた同社の防衛・宇宙事業の年間売上高を2027年3月期までに1兆円規模に倍増させるとともに、現在6000〜7000人の防衛事業人員を2〜3割増やすと発表した。

 防衛事業1兆円が実現すれば、SIPRIの世界軍需企業ランキングで現在43位の三菱重工は20位前後に急上昇する。防衛費2.5倍増という国内需要の追い風だけでなく、輸出の活路が開けつつあることも背景として見逃せない。日本政府は昨年末に「防衛装備移転三原則」を改定し、地対空迎撃ミサイル「パトリオット」の対米輸出に道を開いた。国内で製造するパトリオットはロッキード・マーチン、RTXのライセンスの下、三菱重工が生産している。ロシアと戦うウクライナ向けに備蓄ミサイルを供給し「弾薬不足」が懸念されている米国にとって、日本製パトリオットの受け入れは渡りに舟となる。

巨額の開発コストを賄う需要は開拓できるか

 さらに、「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」と呼ばれる次期戦闘機開発(製造開始のメドは2030年、配備予定は2035年)が今後本格化する。三菱重工は英BAEシステムズ、伊レオナルドという欧州の航空・防衛大手2社と共同で機体開発を担う。……

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